自分の預金おろすための「銀行強盗」頻発 レバノン襲う未曾有の経済危機

襲撃のあったビブロス銀行の支店(レバノン・ティルス、10月4日)|Mohammed Zaatari / AP Photo

◆裏目に出たディアスポラへの依存
 さらに、燃料も輸入に依存しているため、電力の供給にも制限があり、停電が珍しくない。また政府が補助金を9月に完全に終了したため、燃料価格も急騰。庶民がよく使う相乗りタクシーの乗車料金は危機以前の2000レバノンポンドから、今では5万レバノンポンドに上がっている。(ゾーン・ブルス、9/14)

 2019年までレバノンが何とか経済均衡を保ってきたのは、ディアスポラ(海外在住のレバノン人)のおかげだ。70万人以上いると言われる彼らは主に湾岸諸国で仕事に就き、国内の家族に送金していた。国内のレバノン人たちはそのお金で輸入したものを消費するという生活を送ってきた。だがジャド・チャーバンが指摘するように、このディアスポラへの依存構造こそが、レバノン人の地元への投資や生産業の発展を妨げてきた要因の一つとなっている。(TV5)

 さらに新型コロナウイルスもまたレバノンの窮状の要因となった。2019年の段階で唯一明るい見通しだった観光産業が、パンデミックの影響で壊滅的状況に追いやられたからだ。

◆教育、医療も危機的状況
 レバノンでは学校の70%が私立であるため、学費を払えなくなる家庭も続出している。また、学校は教師に給料を払うのに苦心するなど、学校運営にも影響がでている。(TF1)

 この危機から逃れようと海外移住するレバノン人も後を絶たない。2021年の世論調査によれば、63%の国民が移住を望んでいる。すでに脱出を図った人のなかには医療関係者も多く、医師は専門医を中心に約4割、看護師は約3割が国外に移住した。そのためレバノン国内の医療機関の医師不足は深刻だ。(ゾーン・ブルス)

Text by 冠ゆき