自分の預金おろすための「銀行強盗」頻発 レバノン襲う未曾有の経済危機

襲撃のあったビブロス銀行の支店(レバノン・ティルス、10月4日)|Mohammed Zaatari / AP Photo

◆2019年から危惧されていた経済破綻
 レバノンの財政危機は昨今始まったものではない。アラブ経済学者サークル会長のサミ―ル・アイタ氏は2019年に「国(レバノン)はほとんど破産状態だ」と述べていた(TV5)。その根底には、汚職の蔓延、公的資金の用途が明らかにされないといった透明性の欠如、国の統治のまずさがある。

 エコノミストのジャド・チャーバンは2019年の時点で、このままでは「貧困率が人口の50%に上昇する可能性がある」(同上)と憂慮していたが、上述の通り50%どころか現在は80%に達している。

◆港爆発、ウクライナ侵攻が拍車をかける食糧不安
 レバノンは消費財の5分の4を輸入に頼っているため、レバノンポンドの下落は、高インフレに直結する。そこにさらなる打撃を加えたのが2020年8月のベイルート港格納庫爆発だった。215人が死亡し6500人が負傷したこの爆発が引き起こした火災で、レバノン国内最大の穀物貯蔵施設も焼失した。

 加えて今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻も食料難に拍車をかけた。それまでレバノンは消費する小麦の80%をウクライナから輸入していたからだ。結果、現在国民の3人に1人は、少なくとも1日に1食は抜かざるを得ない状況になっている(TF1、7/31)。

Text by 冠ゆき