TikTok発のヒット商品続々 時代は「TikTokでおなじみ」に

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 ニューヨークのとある菓子店では、人気菓子の「トゥイズラー」や「サワー・パッチ・キッズ」の近くにフルーツの形をしたグミが置かれている。TikTokで話題になったことから、その棚の仲間入りを果たしたものだ。

 昨年、フルーツグミのプラスチックケースにかじりつき、口から色のついたグミを吹き出す動画が大量に投稿された。菓子チェーンのイッツシュガーではスタッフからそのグミを仕入れるよう求める声があがり、実際に好調な売上を記録したことから、売上戦略にTikTokを取り入れることになった。現在、店舗にはTikTokのロゴが入ったポップが配置され、同アプリ経由の商品購入は週間売り上げの5~10%を占める。

 約100店舗を展開するイッツシュガーでマーチャンダイジング担当アシスタント・バイス・プレジデントを務めるクリス・リンドステッド氏は、「ただごとではない数字です」と言う。

 TikTokといえばダンス動画で有名なアプリで、全世界に10億人のユーザーを抱えるが、ある購買現象も引き起こしている。小売店が「テレビでおなじみ」を謳い文句にインフォマーシャルで取り上げられた商品を売っていたように、全国規模のチェーン店などが、同アプリのおもなユーザーである若者を店舗に誘導すべく、TikTokコーナーの設置に向け動いているのだ。

 全米に書店チェーンを展開するバーンズ・アンド・ノーブルでは、棚に「#BookTok」と書いたポップを置いている。このハッシュタグは、TikTokで本を勧めるときに使うもので、ペーパーバックの本をベストセラーに導いた。アマゾンは「Internet Famous(インターネットで有名な商品)」というセクションをサイトに設け、TikTokを使ったことがある人なら誰もが知っているであろう商品をリストアップしている。

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 TikTokでは、「#TikTokMadeMeBuyIt」というハッシュタグの視聴回数が50億回を超えており、同アプリの影響で、レギンス、ハンドバッグ、洗浄剤、さらにフェタチーズなど、多種多様な商品が驚異的なヒットを記録した。今年初旬、オーブンで焼くフェタパスタのレシピ動画をきっかけに、白くて塩気の効いたフェタチーズがスーパーマーケットの冷蔵庫から瞬く間になくなった。

 TikTokで次に何が流行るのかを言い当てることは難しい。誰がどの動画に巡り会えるかについて、同アプリの判断方法は大部分が謎のままである。動画クリエイターに無料の商品を大量に送ったり、コマーシャルに出演してもらったり、またはTikTokの広告を購入するなどして商品の売上が急に伸びたとしても、少しの油断から人気が急降下した企業も少なくない。

 米ファッションブランド、ケイト・スペードのチーフ・マーケティング・オフィサーを務めるジェニー・キャンベル氏は、今年初めにブランドのウェブサイトで「heart」というワードの検索数が急増したことを振り返り、「どういうことなのか、最初はよくわかりませんでした」と話す。

 その原因は、22歳のナタリー・コバルビアス氏がTikTokに投稿した60秒間の動画クリップであることが判明した。同氏が駐車した車の中で、買ったばかりのピンクのハート型バッグについて熱く語る様子を自撮りしたものだ。ほかのユーザーがその動画を真似てバッグを購入したり、洋服と合わせてみたりする動画を投稿した結果、300ドルのハート型バッグは売り切れとなった。

 カリフォルニア州サリナス出身のメイクアップアーティストであるコバルビアス氏は、動画を投稿する際に報酬は受け取っておらず、「バッグを宣伝しようとは思っていませんでしたから、信じられませんでした。心からワクワクして嬉しかったのです」と話す。

 ケイト・スペードはバッグの在庫が復活すると、コバルビアス氏にTikTok動画をもう1本投稿するよう依頼し、引き換えに無料のアイテムを送った(こちらの動画には広告である旨が表記されている)。これを機にもともとはバレンタインデー限定だったバッグが色数を増やし、フェイクファーなど生地の種類も豊富になって、通年アイテムとなった。

 ジェンジー・プラネットの創設者であるハナ・ベン=シャバット氏によると、Z世代にとってパーフェクトな写りのセルフィーを載せることを目的とするインスタグラムとは違い、TikTokのクリエイターは嘘偽りないようにみえるため、購買意欲を強くかきたてられるという。同氏の運営するコンサルティング会社は、実際にTikTokを愛用している層である1990年代後半~2016年生まれの世代に焦点を当てている。

 ベン=シャバット氏は、「ユーザーはTikTokの口コミに信頼を寄せています。ここにはリアルな人物がいて、リアルなストーリーを聞かせてくれるのです」と話す。

 インスタグラムやYouTubeをはじめとするプラットフォームは、人と人とを繋いだり、ユーザーに雑多でおもしろい動画を紹介したりするが、マーケターがそれらの潜在的な販売力に気がつくのはその後だ。TikTokの場合、広告や店舗への誘導経路を増やしてしまうと信頼性が失われ、リスクとなり得る。サンディエゴ大学でマーケティングの准教授を務めるコリン・キャンベル氏は、「広告がわざとらしかったり迷惑になったりすれば、ますます問題です」と指摘する。

 報酬をもらってブランドを宣伝しているインフルエンサーはフォロワーに商品を売り込む腕を磨いており、報酬を得てはいるが本当に好きな商品をおすすめしているのだという。同氏は、「彼らからするとフォロワーは他人ですが、フォロワーは彼らが友人であるかのように感じるのです」と話す。

 アリゾナ州グッドイヤー出身でバリスタとして働く21歳のカンナ・マイヤーズ氏がティーン向け小売店、エアリーのレギンスを50ドルで購入したのは、TikTokで目にしたいくつかの動画で女性たちが「ウエストバンドがクロスしているおかげで砂時計のような体型に近付ける」と言っていたからだ。同氏は、「言われた通りにエアリーで買い物をしましたが、TikTokで見かけるまでは存在すら知らなかったのですから、おかしいですよね」と言う。

 このレギンスが2020年にTikTokで拡散された後、エアリーは同様のデザインのバイカーショートパンツやテニススカート、ビキニボトムも取り扱うようになった。いずれの商品も、同店のウェブサイトでTikTokと検索すると出てくる。レギンスの売上本数について、同社は公表を控えている。

 TikTokはSnapchatなどそのほかのテクノロジー企業と並び、ソーシャルショッピングの大手としてフェイスブックに挑む準備を整えている。調査会社のイーマーケターによると、ソーシャルメディアサイトでのショッピングはアメリカでは370億ドルもの市場規模を誇るが、大部分はインスタグラムとその親会社であるフェイスブックによるものだ。その規模は、2025年末までに倍以上の800億ドルまで伸びる見込みだ。

 TikTokは今年9月、ブランドが同アプリ内にショップを設け、会計は各自のサイトに誘導して行うサービスのテスト運用を開始した。その上、さらなるサービスについても示唆している。最終的には中国版姉妹アプリ、抖音(ドウイン)のようになるのかもしれない。抖音ではフェイスブックやインスタグラムと同様、アプリを離れることなく商品の売買が可能だ。

 TikTokのゼネラル・マネージャーを務め、ブランドに向けてアプリ内広告の購入を促進し、売上増加のサポートを行っているサンディ・ホーキンス氏は、「ここ1年で、TikTokによって新しい形のショッピング体験が実現する様子を目の当たりにしました。コミュニティの声に絶えず耳を傾け、彼らがお気に入りの商品を見つけ、エンゲージし、購入するまでを手助けできるソリューションを打ち出そうと張り切っています」と語る。

 昨年はアメリカでは手に入らなかったイギリス製の洗浄剤、「ザ・ピンクスタッフ」もそのひとつである。同商品を使って錆びたポットや油まみれの調理台を磨く動画がTikTokで話題になり、事態は一変。ブランドが大西洋を渡るきっかけとなった。ザ・ピンクスタッフ・ユーエスの社長でチーフ・オペレーティング・オフィサーのサル・ペッシ氏によると、1月にはアマゾンでアメリカ進出を果たし、月に130万個の洗浄剤を販売しているほか、有名店からも商品を仕入れたいという問い合わせがきている。

 同氏は、「このような事態はまったく初めてです」と言う。

By JOSEPH PISANI AP Retail Writer
Translated by t.sato via Conyac

Text by AP