計画停電も発生 国営電力会社が経営危機の南ア 官民連携の改革なるか

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 南アフリカでは、国営電力会社であるエスコム(Eskom)が国内の電力供給のおよそ9割をまかなっているが、同社の経営状況は最悪で、かつ電力供給能力も低下している。結果、同国では電力供給不足のため、散発的に計画停電が実施されている。電力供給の課題に対しては、政府による対応策だけでは打開できず、民間投資が期待されている。エスコムの再生、エスコム依存からの脱却、そして再生可能エネルギーの活用やオフグリッド化に向けた新たな動きとは。

◆課題多きエスコム
 エスコムが抱えるもっとも大きな課題は、巨額の負債だ。同社の中間報告書によると昨年9月時点での負債額は4647億ランド(約3.4兆円)。過去の自社のアセスメントでは、負債レベルを半分以下の2000億ランドにまで引き下げる必要があるとのことであったが、その目標値達成には程遠いレベルだ。同社は直近では、商業銀行のシンジケートローンから150億ランド、中国開発銀行から70億ランド、南アフリカ政府の年金基金や雇用保険などを管理する公的投資会社(Public Investment Corporation:PIC)から50億ランドの資金調達を行った。政府は、2020年度は560億ランドの救済支援を実施し、2021年度も317億ランドの救済計画を予算化。資金は債務利子支払いおよび債務返済にあてられる。昨年の3月決算の財務状況をみると、電気料金を14%値上げしつつも供給量は減り、売上高は前年比で11%増に留まった。営業利益は出ているものの、多額の財務コストが発生しているため205億ランドの純損失を出した。

 供給先である各自治体からの支払いの滞りも課題だ。2019年度は、自治体に対する請求額の71.7%が未払い。2020年6月時点では380億ランドが未回収という状況で、キャッシュフローを悪化させている。一方、オペレーション面でも発電所のメンテナンスが進まず、過去20年間で稼働率が20%低下した。電力供給が需要に追いつかず、現在、南アフリカでは散発的に計画停電が実施されている。(カンバセーション

 さらにエスコム幹部による7.5億ランドの不正取引という汚職問題も摘発されており、同社が納税者の信頼を獲得するのは難しそうだ。今年1月に事業再生の期待を背負って就任したCEOのアンドレ・ド・レイタ(Andre De Ruyter)に対しては、人種差別の疑惑も問われている。

 破綻を避け、経営状況を改善するための改革案の一つが、現在一社として垂直統合されている、発電・配電・送電の3プロセスを、段階を追って分社化することだ。2020年3月時点では、まずはこれらの3つのプロセスが部門化された。2022年末までに、発電、配電、送電をそれぞれに分社化することが計画されている。分社化で必ずしも経営状況が改善されるとは限らないが、機能別に分社化することによる効率化や費用・機能の明確化が期待される。さらに、垂直統合したエスコムの市場独占状態の現状に対し、発電分野における新たなプレーヤーの参入による電力供給量の増加や、市場競争が生まれることによる価格・サービスの向上も期待できる。政府は、現在の供給不足に対して、独立発電事業者から2000MWを調達予定。また追加で2600MWのクリーンエネルギー(太陽光・風力)の調達計画も発表されている。また、エスコムに対する負債がないことを条件に、各自治体がエスコムだけに頼らずに独自で発電を進めるための法律も整備された

Text by MAKI NAKATA