スイス・ジュネーブ州、最低賃金を「世界最高」時給2600円に 月給換算47万円
◆コロナの危機感が後押し
ローカル誌によると、ジュネーブ州での最低賃金導入が過去に2度否決されている。2011年と2014年に行われた住民投票では、それぞれ54%と66%の住民が反対票を投じた。また、CNNによると、スイス全土への導入を問う国民投票では76%が反対しており、従来は反対派が圧倒的であった。
この流れは、コロナの流行によって大きく変化することになる。ジュネーブ市の経済は旅行客とビジネス目的での訪問者に支えられており、コロナウイルス流行による影響を正面から受けた形となる。
こうした背景を受け、今回の住民投票はおよそ6割の支持を得て可決された。ガーディアン紙は「このスイスの都市(ジュネーブ)に広まりつつあるコロナウイルス関連の貧困に誘発された、驚くべき投票結果」であったと見ている。
◆月47万円でも生活苦しく
スイス経済はパンデミックで縮小の危機に瀕しており、国民は警戒感を強めている。『ローカル』誌は、貧困問題が「裕福なジュネーブにおいて、コロナ危機の到来以来ますます明白になってきていた」と述べ、最低賃金の導入がその打開策としてアピールされてきたとの事情を明かしている。フルタイムで労働すれば月収47万円が最低ラインとして保証されることになるが、この額でなお、暮らしは厳しいようだ。同誌によると、スイス国民の平均月収は6500スイス・フラン(約75万円)となっており、最低賃金ではその6割を辛うじて上回る程度にすぎない。代表的な2LDK程度のマンションを借りれば3000スイス・フラン(約35万円)がかかり、収入の半分近くが家賃に消えることになる。
失業などによって生活に困窮する人々も多く、ジュネーブではフードバンクの支援を受けたNPO団体などが食料の無料配布を実施している。今年夏季に毎週6000人から9000人に食品と日用品を配布したというある団体の職員は、CNNの取材に対し、ジュネーブでの最低賃金の導入は必要不可欠だったと語っている。低賃金労働者が食料を買うことができなければ、生存が脅かされることになる。
ただし、最低賃金が高過ぎれば、企業の雇用意欲を削ぐというジレンマもある。スイス公共放送協会のサイト『スイス・インフォ』は、賛成多数となった住民投票の結果について、労働組合および左派政党のキャンペーンが成功したものだと報じている。生活費が高騰しているスイスにおいて、生活費を賄うことができないワーキング・プアの救済を目的としたものだ。一方、ジュネーブ州政府と右派政党は、反対票を投じるよう住民に呼びかけていた。給与水準は労使間で合意すべきものであり、州政府が干渉すべきではないと主張している。コロナによる危機を背景に導入された世界最高水準の最低賃金だが、スイス国内でも賛否両論があるようだ。
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