「美白」見直す化粧品業界 表現変更、製品販売中止も

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 夫からの興味が失われた? 職場の同僚に仲間外れにされる? 才能を認めてもらえない? そんなときは美白ケアをしましょう。愛に包まれた生活とさらなるキャリアを手に入れ、スポットライトを浴びることでしょう……世界最大手の化粧品会社が売り込んできたのは、このようなおとぎ話である。

 こうした宣伝文句を用い、アジアやアフリカ、中東諸国において最も大きな成功を収めたのは、「ユニリーバ」が展開するブランド「フェア&ラブリー」である。1本あたりわずか2ドルの美白クリームは、インドで年間数百万本販売されている。

 イギリスとオランダに本拠を置く複合企業のユニリーバは、45年間続くこのブランドにおいて、インド国内だけで年間5億ドル以上の収益を上げていると、金融コンサルティング「ジェフリーズ」は報じる。

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 色白肌がもたらす威力を強調した宣伝広告が一般的だった時代から数十年を経て、現在、ブランド名の一新された商品が世界の市場に出回っている。しかし、肌の色が白いほうが濃いよりも好ましいという価値観を示す「カラーリズム(濃淡差別)」に深く根付いた偏見は、世界最大手の化粧品ブランドが進める新たなマーケティングによって覆されることはないだろう。

 ユニリーバは、「フェア(色白)」「ホワイト(白)」「ライト(明るい)」などの用語を、広告やパッケージから削除していると伝え、「美に対するより包括的なビジョン」を目指すための決断であると理由を述べている。また、インドを本拠地とする同グループ会社「ヒンドゥスタン・ユニリーバ」は、「フェア&ラブリー」ブランドを今後、「グロー&ラブリー」に変更することを公表している。

 フランスの大手化粧品会社「ロレアル」もこれにならい、同様の用語を製品から削除すると表明した。「ジョンソン・エンド・ジョンソン」は、「ニュートロジーナ」が展開する美白ケアシリーズの販売を中止すると発表している。

 このような取り組みの背景には、人種的不平等に対する大規模な抗議運動がある。アメリカで黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警察官によって地面に押しつけられ、亡くなったことに端を発する。

「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」抗議運動は世界中に広がり、人種についての議論が再燃している。この状況を受け、企業は自社の方針を見直し、ほかにもさまざまな転換を図ってきた。

 世界各地の活動家は長い間、ユニリーバによる「フェア&ラブリー」の積極果敢な宣伝に対し、反対の意思を示してきた。同ブランドの広告については、エジプトからマレーシアにいたる各拠点の女性団体から批判の声が上がっている。

 カビタ・エマニュエル氏が、インドで「ダーク・イズ・ビューティフル(色の濃い肌は美しい)」キャンペーンを立ち上げて、10年以上が経つ。自然な濃い肌の色よりも白い方が美しいという考え方に異議を唱えるものだ。ユニリーバのような多国籍企業は、肌の色合いをめぐる偏見を生み出してはいないが、それを利用してきたと、同氏は指摘する。

「このような価値観が45年にわたって支持されてきたことで受けたダメージは、相当なものです」とエマニュエル氏は述べ、多くの若いインド人女性たちの自尊心が損なわれてきたと話す。

 このような確固たる美の基準のなかで育った女性たちのために、肌ダメージによる色素沈着を薄くし、全体的な美白にも効果のある商品やサービスが市場にあふれている。

 南アフリカの美容クリニック「スキン・アンド・ボディ・インターナショナル」の経営者タビー・カラ氏は、1、2トーン明るめの色味を使いたいと話す人が多いと述べる。

「これはアフリカでは一般的な要望です。みんな、いまよりも少し白くなりたいと願っています。肌が白いほうが社会的に認められる、または周りからの関心を得やすいというだけの理由なのです」と、カラ氏は話す。

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 日焼けした肌が休暇や美容の証とされることの多い西洋の文化とは異なり、北アフリカやアジアの地域では歴史的に、色の濃い肌は太陽の下で働く貧しい労働者を連想させるものであった。

 インドの文化に確立された色白肌に対するこだわりは、よく見られる結婚相手募集広告に強く反映されている。結婚相手候補の身長や年齢、学歴に加え、肌の色について「色白」もしくは「小麦色」の記載があることも多い。

 インドでは、ヒンドゥー教における古代カースト制度により、偏見の一端が担われてきた。肌色の濃い人々は「不可触民」と見なされることが多く、汚物処理などの非常に汚い仕事に追いやられてきた。

 多くの国でもてはやされる白く明るい肌のもつ力は、ヨーロッパの基準によりさらに強固なものとなり、そして、美白ケア商品の広告に起用されるハリウッドやボリウッドの映画スターにより確固たるものとなった。

 日本では、少なくとも11世紀以降、色白で透明感のある肌が憧れの対象であった。日本語で「美しい」と「白い」を表す、いわゆる「美白」製品は、大手ブランドにおいていまも人気である。

 東京に本拠を置く最高級スキンケアブランド「資生堂」によると、同社の「美白」製品には皮膚を漂白する成分は含まれていないが、シミの原因になり得るメラニンを減らす効果はあるという。ほかのグローバル企業の対応に追従するという理由のみで、「ホワイトルーセンス」シリーズをはじめとする商品名を変更するつもりはないとの意向を示した。

 韓国では、2001年以降に製造された約1200種類の化粧品に、「ホワイトニング」もしくは「mibaek(美白)」の文字が使用されていると、食品医薬品安全庁が報告した。

 さらに、2019年には約2億8300万ドル相当の「mibaek(美白)」製品が製造されたと公表された。

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 韓国の化粧品会社「アモーレパシフィック」は、アメリカの文化的多様性を考慮し、同国向け輸出製品には「ブライトニング(明るい)」の用語を使用しているという。一方で、国内向けに販売される美容クリームからは、「mibaek(美白)」などの文字は削除できない。美白ケア製品の効用を具体的に示す用語を使用するよう、法律で定められているのだ。

「ナチュラルホワイト」や「ホワイトラディアンス」を販売するスキンケアブランド「オレイ」を運営するアメリカの「プロクター・アンド・ギャンブル」は、全世界的な商品名の変更予定について回答を避けた。

 エマニュエル氏は、ユニリーバやロレアルの決断を快く思うと話す。一方で、美白ケア製品をめぐる今後のビジネス展開について関心を抱いているという。

「いま起きている変化について、本当に嬉しく思います。しかし、実際に何が変わっていくのか、まだわかりません」と、エマニュエル氏は述べる。

 ユニリーバは声明のなかで、「『フェア(色白)』『ホワイト(白)』『ライト(明るい)』という言葉を使用することは、美の理想が一つしかないことを示唆するものであり、当社の考えに沿うものではない」との認識を示した。その代わりとして、「光沢のある肌、落ち着きのある色味、透明感、輝き」をもたらす製品について言及した。

 ドバイを拠点とするマーケティングの専門家アレックス・マルーフ氏は、プロクター・アンド・ギャンブルに在籍した経験をもつ。これまで、世界各地の顧客それぞれに対応した事業を行ってきた企業も、現在は、主たる株主が拠点を置くアメリカやヨーロッパで起きている社会的な変化に注意を向けていると、同氏は述べる。

 例を挙げると、ロレアルは6月、同社は「黒人コミュニティと連帯して立ち上がり、いかなる不正にも立ち向かう」とのメッセージをツイッターに投稿した。同社は黒人女性を対象とするブランド「ダーク&ラブリー」をアメリカ国内で展開している。

 しかし、アメリカ以外の地域では、「白く完璧な肌」を目指す製品シリーズ「ホワイトパーフェクト」を売り出していた。

「このようなことは情報化時代には通用しません。企業がアメリカで何を行っているか、ここでは何をしているのか、見て取れますので」と、マルーフ氏は話す。

By AYA BATRAWY Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP