TPPで変わる輸入牛肉の勢力図 ライバルの躍進に焦るアメリカ
◆あわやセーフガード 米一人負けもあり得る
日本における急激な輸入牛肉の増加は、いきなりアメリカに大きな不安をもたらした。日本では、チルドまたは冷凍牛肉の四半期ごとの輸入量が前年同期比で17%以上増加した場合、セーフガード(緊急輸入制限)が発動され、38.5%の関税が50%に引き上げられる。しかし、セーフガードによる関税率の対象となるのは、EPAを日本と結んでいない国のみだ。つまり、TPP加盟国であるオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、メキシコには適用されず、実質アメリカのみが対象になる。
1月から2月の冷凍牛肉の輸入量が急増していたことから、セーフガードが発動されるのではといわれていたが、3月は年度末で在庫が抑制される傾向にあったこと、また関税アップを避けるため日本の食肉貿易協会が輸入業者に調整を促したことなどから、発動は回避される見込みだ。
輸入牛肉に対するセーフガードは2017年に14年ぶりに発動され、日豪EPAを結んでいたオーストラリア以外の輸出国はすべて影響を受けた。今回もしセーフガードが発動されていれば、5月と6月はアメリカがCPTTP参加国のほぼ2倍の関税を課せられる結果となっていたはずだ。
2017年のセーフガード発動で、トランプ政権はその撤廃を日本に求めたが、日本政府は既存の枠組みをそのままにした。これについて、牛肉を今後のアメリカとの自由貿易協定交渉での切り札にしたい日本政府の戦略という見方もある。
◆豚肉にもダメージ EPAなしでは太刀打ちできず
米食肉輸出連合会のダン・ハルストロムCEOは、牛肉だけでなく、CPTPP参加国に加え日欧EPAでEUとも戦わなければならなくなった豚肉の場合も事態は深刻だと述べる。とくにCPTPP勢とEUに対するシーズンド・ポーク(加工用ミンチ肉)とソーセージの関税が早くも2023年には撤廃され、ハムとベーコンの関税も2028年にはゼロとなることに懸念を示している(米牛肉生産者向けサイト『Drovers』)。
閣僚級の日米貿易交渉の初会合が16日に行われ、農産品に関しては引き下げ限度をTPP水準とする方向でまとまったようだ。ハルストロムCEOは、アメリカはすでにライバル国に比べ、関税においては非常に不利な立場にあるとして、日本との貿易交渉の迅速な進展を望むと述べている(同上)。
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