人材育成に力を入れるデトロイト市 FCA新工場のために万全の準備

AP Photo / Carlos Osorio

 フィアット・クライスラー・オートモービルズは2月末、45億ドル(約5,020億円)規模の投資計画を発表した。この計画により、デトロイト市とその近郊に製造業の分野で新たに6,500名の雇用が生み出される予定だ。最初の完成車が製造ラインを離れる2年近く前から、デトロイト市は早くも必要なスキルを備えた人材を確保するための準備に取り掛かっている。

 デトロイト市の経済はかつて自動車製造業に牽引されていたが、中心部から自動車産業が少しずつ移転していくにともない、合衆国の中でも高い貧困と失業率に苦しむようになった。近頃では、2013年に財政破綻を表明するなど、基本的なサービスを提供することも容易ではなくなっていた。職業訓練の機会を提供することなど、その当時では無理な注文だっただろう。

 しかし経済が回復に向かうなか、同市は研修プログラムを大幅に見直し、徐々に人々がさまざまな職種につけるような職業訓練の実績を作ってきた。

                                                                                                                 

「ゼロから始めたわけではありません。私たちは、この投資の結果、わが市に生まれるであろう雇用のすべてに対して、準備ができているということを明確にしたいのです」と同市の人材開発責任者、ジェフ・ドノフリオ氏は述べている。フィアット・クライスラー・オートモービルズが計画を発表した翌日のことである。

 デトロイト市は自動車会社と労働組合とパートナーシップを組み、2つの高校とコミュニティカレッジ、人材開発組織とも協業して製造・建設・情報・ヘルスケアの各分野の人材を育成する研修プログラムを作成した。

 デトロイト市は、自動車部品を扱うグローバル企業フレックス・エヌ・ゲートが昨年工場を建設するにあたり、同社と密に連携をとってきた。市長は、この工場建設を「デトロイト市で過去20年間における最大規模の投資」と呼んでいる。デトロイト市と同社は、非営利団体Focus:Hopeと協業してカスタマイズされた研修プログラムを開発した。このプログラムは人材開発と教育に重点を置いている。

「およそ250名の参加者が同プログラムを卒業し、その大部分がフレックス・エヌ・ゲートに採用された」とドノフリオ氏は語る。

 税控除や用地取得に関して決着まで時間を要するため、フィアット・クライスラーの必要とする具体的な労働力はまだ明らかにされていない。しかしドノフリオ氏は、「デトロイト市はふさわしい労働者を次々と生み出している」と自信をのぞかせる。デトロイト市は昨年、2,500名の人々に訓練を施し、特殊な仕事のための資格を得られるようにした。その数は2年前のおよそ700名から増加している。

 フィアット・クライスラー・オートモービルズで採用される予定の職種のいくつかには、以前解雇された同社の元従業員や現在の臨時従業員が採
用されるだろう。全米自動車労働組合によると、彼らの多くはすでにデトロイトにいるという。

 同社は閉鎖されたエンジン工場を再稼働させ、さらに同じ施設内にあるもう一つの工場をジープグランドチェロキーおよび、新しい3列シートでフルサイズのSUVジープ用の組立工場に改装するため、16億ドル(約1,788億円)を投資した。この投資によっておよそ3,850名の雇用が見込まれる。

 この投資により、フィアット・クライスラー・オートモービルズが必要とする、デトロイト市での時間あたりの労働力がおよそ2倍になると考えられている。

 デトロイト市により、職業訓練の機会と平均賃金が年間約5万8,000ドル(約647万円)と予想される職が得られるという見通しは、ラダール・ムーア氏を満足させるものであった。同氏は22歳のデトロイト市民で、10ヶ月の息子がいる。18歳の時から製造業界で働いてきたが、フォークリフト運転士の仕事を数ヶ月前に解雇されたばかりだ。

「俺は都会で働いたことがないんだ。仕事が郊外にしかなかったから。給料も上がっているから、実入りもよくなっているよ」とムーア氏は言う。叔父のフレッド・ボーデン氏はフィアット・クライスラー・オートモービルズのジェファーソン・ノース・プラントに勤めており、同プラントではこの複数の工場に対する投資で1,100名の雇用を新しく計画している。

「今フィアット・クライスラー・オートモービルズと一緒にやっていることは、デトロイト市にとっても大きな出来事だよ」とムーア氏は語る。

 ミシガン大学でかつてビジネスおよび公共政策を教え、ゼネラルモーターズの前チーフエコノミストであったマリーナ・ホイットマン氏によると、デトロイト市とフィアット・クライスラー・オートモービルズはかなりの折衝があったものの、早期にしかるべき着地点に到達していたようにみえるとのことだ。クライスラーとゼネラルモーターズは、過去にそれぞれ経営破綻を乗り越えた経験がある。

 アマゾンがニューヨークに第2本社を置く計画を断念し、2万5,000名の雇用をふいにしたという最近の決定について、ホイットマン氏は気にとめていない。アマゾンは、職業訓練を受けた労働力の確保がうまくいかなかったのではなく、税控除の取り決めに対する強い政治的な反発にあったのだと同氏は考えている。

「デトロイト市全体が、この人材育成のプレッシャーに対して賢い手法をとっているため安心して構いません。自動車会社は、辛酸を味わいましたが、ついに成功するためにはどうしなければならないかを発見したのです」と同氏は言う。

 終わりかけたところから再スタートするには、まだまだ時間がかかるかもしれない。しかし、ドノフリオ氏によるとそれこそが、職業訓練における重要なポイントだという。

「電車に飛び乗り、運を天に任せるアプローチからは離れなければならない」と同氏は語る。

By JEFF KAROUB, Associated Press
Translated by Y.Ishida

Text by AP