「単独では中国に勝てない」 トランプ流で孤立するアメリカ、識者ら危機感

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◆対中貿易戦争は単独では困難 TPPにスポットライト
 トランプ氏の関税攻撃で、貿易における米中間の緊張が高まっているが、元民主党上院議員のボブ・ケリー氏は、中国に圧力を加えることは正しいが、トランプ氏のアプローチには疑問符が付くと述べる。多国間でつくるグループを味方にし、中国に対処するほうがはるかに楽だとし、TPPの有効性をCNBCの番組の中で訴えた。

 アジア・タイムズに寄稿した、国際関係の研究者、Xuan Loc Doan氏も、人口14億人の巨大な市場を抱え、一党独裁で国内を統制できる中国に単独で挑むのは非常に困難だと指摘。アメリカの同盟国や友好国を多く含むTPPのような多国間協定、また中国の不公平な貿易慣行を懸念するEUなどとの協調が欠かせないとする。

 同氏は、今のままではアメリカは国際社会からの支持を失い、結果的に中国を勢いづかせることになるとしながらも、トランプ氏が考えを変えることを、同盟国や友好国は待ってくれていると述べる。トランプ氏にとって、「アメリカ・ファースト」の撤回は不本意だろうが、固執すれば「アメリカ・アローン(1人)」を招き、中国からも相手にされなくなるだろうとしている。

◆すでに時遅し? TPPでも中国の影響力は抑えられない
 そもそもTPPは、アメリカが地域の貿易ルールを描き、増大する中国の影響力に対抗できるようにするものだった。トランプ氏は、条件が大きく改善すればTPP復帰もあるという考えを示しているが、ディプロマティック・クーリエ誌は、TPPに戻ったとしても、アメリカのソフトパワーの低下を反転させることはできないと述べる。

 アメリカはブレトン・ウッズ体制下で、金融、外交、政治を含むさまざまな価値の枠組みを設定してきたが、ここ数十年の間に中国の影響力は増しており、「一帯一路」構想、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などの中国式モデルが、注目を浴びている。

 総じて周辺国の間では中国よりアメリカへの支持が高いが、中国主導のプロジェクトが広がるにつれ、アジェンダを設定し、経済のルールを支配する中国の力は高まって行くことになる。よってアメリカが地域に対する影響力を維持するには、TPP復活以上のものが必要だと同誌は述べ、アメリカはアジア太平洋を失いつつあると見ている。

Text by 山川 真智子