「おもてなしの日本なら唯一無二のIRできる」動き出す世界のカジノ関連企業、参入に意欲
7月20日、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案が参院で可決・成立した。法案成立を受け、早くもMGMなど海外リゾート運営業社らが日本進出に意欲を見せている。100億ドル規模の投資の意思を示す企業があるほか、許可される3地点のIRを合計すると500億ドルの開発規模に達するとの予測も示された。日本は「おもてなし」で知られるように上質な顧客体験を追求する文化がある上に、これまでカジノが存在しなかったため、絶好の進出先だとの認識が海外事業者の間に広がっている。
◆2025年ごろオープン 海外カジノ業界が予測
IR法の下、国内でのカジノ建設は当初は3ヶ所までに限定される。建設地は未定だが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は現時点での候補地として、東京のお台場、大阪のUSJにほど近い舞洲、和歌山マリーナシティ、長崎のハウステンボスを挙げている。みずほ総研のエコノミストは、どの事業者も東京や大阪などの大都市圏を狙うため、特定の地域で激しい競争が繰り広げられるだろうと予測。大都市以外の地区としては、北海道の苫小牧が有力だとブルームバーグ(7月20日)が報じている。
法案が成立したとはいえ、建設開始までの道のりは長い。カジノ関連ニュースサイト『GGRアジア』(7月26日)は、設置場所をめぐり、地方自治体から政府へのPR合戦が繰り広がられると見る。業界では、最初のIRがオープンするのは2025年前後になるという観測が主流になっている。
◆法案成立で一斉に動き
法案通過を機に、これまでカジノへの興味を公にしてこなかった企業が一斉に企画案を発表しだしている。ブルームバーグによると、ラスベガスのIR運営会社であるラスベガス・サンズとMGMの重役が、すでに100億ドル規模の出資に意欲を示した。米ネバダ州と中国のマカオでIRを展開するウィン・リゾーツのCEOは、「日本は世界的に、『おもてなし』という顧客志向のユニークな文化で知られている」と語る。ユニークな顧客体験を追求する伝統があるため、ほかのどの土地でも実現できないようなずば抜けたIRを実現できると確信していると述べ、上質な接客を行う日本文化に期待感を示した。
マカオでIRを運営するメルコリゾーツ&エンターテインメントの会長は、「日本は我々がフォーカスするコアな領域であり続ける」と発言。GGRアジア誌によると同氏は、日本は素晴らしくエキサイティングで、かつ進出の進んでいない旅行先だと述べており、次世代のIRを開発したいと意欲を見せている。すでに日本にチームを派遣しているほか、多額の投資を行い、早くて来年後半に行われる入札に備えている。
このほか多数の海外企業が日本進出に意欲を示しており、現地支社の開設などで足場を固めている。WSJは、カジノだけでなく、ホテル、レストラン、ショッピング・モール、劇場などが併設される可能性が高いと指摘。大和総研は、3ヶ所合計で500億ドルの投資規模になる可能性もあると予測している。
◆海外事業者と日本国民、双方から課題も
大きな経済効果が期待される一方、事業者からは要望も出ている。日本政府の明確な方針が必要だとするのはGGRアジア誌。ラスベガス・サンズのCOOは、日本政府の指示に従う用意があり、マカオとシンガポールで運営しているIRを参考事例として出すこともできると前向きな姿勢を示す。一方で日本政府に対し、どのような制約や方針があるのか明確にしてほしいと注文を付けた。日本進出を検討中のエンターテイメント企業であるナガコープも、日本は「信じられないほど魅力的なマーケット」だとしつつ、用地取得や税制面などで政府の手引きが必要だと指摘。それなくしては入札にすら参加できないと訴えている。
WSJは日本国内の視点を伝える。海外事業者が期待する法案だが、日本の有権者には不評で、反対派はギャンブル依存症と組織犯罪の助長を懸念している。立憲民主党の枝野代表は、雇用の創出というが、それはギャンブルで金を失った誰かの犠牲の上に成り立つものだ、と厳しく批判した。時事通信が7月に実施した世論調査では、法案成立に有権者の62%が反対と、賛成の22%を大きく上回る結果となっている。
副作用を憂慮する国内の声とは異なり、優れた接客文化を持つ日本への期待感が海外では強いようだ。