日欧EPA署名:安倍首相の手腕を英米紙が評価 国内改革と対米交渉を有利に
◆保護貿易主義に立ち向かう姿勢は「称賛に値する」
DWは、「ドイツ企業は、明らかに(EPAによる恩恵に)関心を持っている」、FTも協定を「歓迎する」と、肯定的に協定締結のニュースを伝えている。その背景には、アメリカのトランプ政権や中国が進める保護主義的な貿易政策への反発があるようだ。
FTは、「今は世界の貿易システムにとって暗い時代だ」とし、「保護主義と一国主義に回帰しようとしている」トランプ政権と「独自のナショナリスティックな成長戦略に邁進している」中国を批判。それに対抗するように日欧が過去最大規模の自由貿易協定を結んだのは「称賛に値する」と評価する。
こうした自由貿易派の期待に応えるように、安倍首相は調印後、協定は「保護主義が広がっている中、日本とEUが自由貿易の旗手として世界をリードするという揺るぎない政治的意思を表す」と語った。トゥスク議長も、協定は、保護主義に対する「明白なメッセージだ」と述べた(DW)。ただし、FTは、データの自由な交換に関する条項が盛り込まれなかったことは不十分だとし、日欧貿易の規模からも「世界の自由貿易への脅威に対する部分的な回答に過ぎない」と、EPAが世界全体の貿易のトレンドに与える影響は限定的だと見ている。
◆米国のTPP復帰を狙った安倍首相の計算も?
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、社説で日欧EPAによって、農業をはじめとするアメリカの国内産業が打撃を受けると警鐘を鳴らしている。同紙はEPAが合意に達した昨年12月の時点で既に「日欧の合意がいかにアメリカの食品輸出を不利にするかを書いた」とし、「最大の影響を受けるのはトランプ氏が大切にしている製造業だ」と警告する。
また、同紙は、TPPに絡んだ安倍首相のしたたかな計算もあるのではないかと見ている。トランプ政権は、「TPPと同様の恩恵がある」という日米二国間協定の締結を迫っているが、「安倍首相はその圧力に抵抗している」と表現。アメリカを除いた11ヶ国で3月に新たなTPP合意に達したが、今回のEPA締結でアメリカにさらに「自由貿易を失った痛手」を負わせ、「トランプ氏か後継者にTPP再加入の道を選ばせる」のが安倍首相の戦略の一部だと見ている。
FTも、安倍首相の手腕を評価している。「日本は伝統的に多国間貿易協議においては他国に主導権を譲り、ある種抑制的な役割を演じてきたが、安倍首相はチャンスを捉え、本来機能すると考えられている方法で、また国内改革を推し進める方法として貿易協定を利用した」とする。そして、今回は過去のアメリカ追従を打ち破って、日本が主導的に自由貿易を守り通したと評価している。世界第3位の経済大国日本と第4位のEUの結束が、1位・2位のアメリカと中国を動かすことになるのか。国際社会の注目が集まっている。
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