ヘンリー王子とメーガン妃のウェディングから学ぶパーティーの経済学
◆「流用」ではなく、「増幅」させること
今ここで見たように、ロイヤルウェディングへの巨額の支出は、ちょうどオリンピックやその他のメガイベントと同様、追加的な消費を創出しうるのだ。では、そのことが経済成長が促すと見ても良いのだろうか?
おそらく促すだろう。ただしその効果は、資金とリソースがどのような形でそのイベントに使われたかという部分と、より広い社会全体の経済状況によっても変わってくる。
国内経済のすべてのリソースがすでに最大限まで使用されているという前提の下では、追加資金の2万6,000ポンドは総生産を引き上げる方には働かず、ただ単に需要増による価格の上昇をもたらし、ひいては、インフレをもたらす結果となる。つまり、国内のリソースが、たとえば医療よりも、今より多くのソーセージロール生産する方に優先的に振り向けられた結果、社会のその他の重要分野の生産性が低下する恐れも実際にある、ということだ。
また、これ以外のコストの発生も考えられる。たとえば、ロイヤルウェディングを警備するのに必要な警官やセキュリティスタッフの人員確保。その人員は、必ず他のどこかの場所から流用されてくる。したがってここでは乗数効果は期待できず、ある場所から別の場所へと、ただ単にリソースが流用されるという側面の方が大きい。ある支出によって真の乗数効果を生み出すためには、生産性の高いものに絞って投資する必要がある。
もし仮に、たとえば王室の人々が、ソーセージロールへの過ぎたる支出計画に対して罪悪感を感じ、代わりにその2万6,000ポンドを、使わずに銀行に預けたままにする決定を下したとしよう。この場合、本来ソーセージロールの売り手が得るはずだった利益が、まるごと消えてしまう。したがって乗数効果の考えに基づけば、この決定は、経済に対してマイナスの影響を与えることになる。
しかし今度はまた、その後、銀行がこの貯蓄資金を貸し付けて、ソーセージロールの生産機械の生産性向上のために投資したと仮定してみる。この仮定の下では、結果として生産性は向上し、経済成長が促される。貯蓄は短期的には経済を悪くするが、長期的には、経済成長を促す方向に作用する。これは「倹約のパラドックス」と呼ばれるものだ。
では、ここまでの話をまとめてみよう。少し先の未来には、私たちの全員が、ソーセージロールを今よりも安く買うことができる。だが、それが起こるまではしばらく時間がかかる。それまでの間、多少の苦労もあるだろう。最初の貯蓄が投資に変わり、投資が生産性を向上させ、それが経済を成長させ、最終的には経済的効用をもたらす。したがってパーティーの経済学の最適解は、次のようになる。「今は使わずに貯蓄せよ。そしまた後で、より盛大なパーティーを開け。」
2012年のロンドンオリンピックを例に考えてみよう。そこで造られた本格的なインフラ設備は、必ずしもスポーツの試合のためだけに造られたのではない。それらは、もともと活用されていなかった市街地の一部に、相当額の投資と長期雇用をもたらした。それによってイギリスは大きな恩恵を受けたのである。
パーティーの経済学をうまく活用するには、消費額と投資額のバランスをとることが大切だ。投資額が少なすぎる場合には、(わかりやすく極端に言えば、)道路には陥没穴が発生し、そこで車が故障し、それによって配達が遅延し、病院の建設にも支障が出て、結果として社会全体の生産性が低下しかねない。したがって重要になるのは、貯蓄し、投資し、新たな市場と新たなインフラを創造すること。さらには、新たな教育、新たな健康サービスを創出し、新たな技能開発も行うこと。以上がここでのポイントだ。
メーガン妃のウェディングドレスが、おそらく今後のファッショントレンドに少なからぬインパクトを与えていく。また過去に遡ってみると、ウィリアム王子のウェディングが観光産業を大きく成長させたことは、各種の証拠から見て事実だろう。では、最終的に得られる結論は何か? 「新たな市場をひらくこと。」おそらくそれが、答えかもしれない。メーガン妃のウェディングドレスのコピーブランドや、そのほか様々なウェディング関連ブランドのコレクションが、今後社会に、何らかのリターンをもたらしてくれる。その可能性はある。
芳醇美味なるイギリスのソーセージロールが、2018年のフードアイテムの新たなるグローバル・スタンダードに―― 絶対にならないとは、現時点では、まだ誰にも断言はできない。ひとつ確実に言えるのは、パーティーが経済に良いと誰しもに認めさせるには、単なるリソースの流用ではなく、新たな創造こそが求められるということだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
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