法外に高価なアートの経済学
◆消費のためのアート
刺激を受ける、インスピレーションを掻き立てられるなど、アートの審美的な効用はきわめて主観的なものであり、測定が難しい。しかしだからと言って、アートの消費価値がないということではない。
経済学者は、消費におけるアートの効用を説明するために、「情緒的リターン」あるいは「情緒的ベネフィット」という用語を使用する。これは3つの主な要素に分けられる。
1つの要素は、アート自体と、それを創り出すアーティストをサポートすることで得られる満足感だ。このモチベーションは、自分のコレクションを博物館に寄付するなど、アートを支援する活動を行う人にとっては特に重要だ。ただし、もちろんこのモチベーションは重要なものだが、これ自体はオークションでの評価額には直接関係しない。
次に、空間をあやどるために使用されるアートの「機能的(あるいは装飾的)ベネフィット」も、情緒的ベネフィットの一要素だ。これは通常、作品を制作する際のアーティスト本人の意図に最も近いものだ。
あとひとつは、芸術を所有することで威信がもたらされるという要素だ。特にそれは、所有者の趣味の良さや、富と力を誇示するために使用される。例えば、多くの家の玄関やオフィスのエントランスには、現代アートの大作が飾られている。
経済学者はこれを、「顕示的消費」と呼ぶ。人々が豊かになるにつれて、高品質のアートに対する彼らの需要は増加する。実際アートは、権力の表現手段として使用される長い伝統を持っており、教会権力はその最たる例である。
それでは結局のところ、アート市場を動かすもの何なのか? ハイレベルのマーケットに限ってみると、そこでは供給がきわめて限られているために、「投資」と「消費」とが錯綜しているというのが実情だ。
有名アーティストの作品は、市場に品質と安心のシグナルをもたらし、富裕層や権力者を惹きつける。作品のユニークさと希少さが需要を押し上げ、他方ではその供給を制限することにもなり、結果として価格上昇につながる強力なトレンドを作り出す。
しかし、ここまでの説明をもってしても、ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」に支払われた高価格を完全に説明することはできない。落札についての分析を見る限りでは、その極端な高価格をつくる上で重要な役割を果たしたのは、オークションハウスによる市場キャンペーンだったとも考えられる。
ともあれ、商品としての価値意外にも、アートは市場価値に単純変換できない文化的価値と社会的意義を持つことは確実だ。ダ・ヴィンチの「サルバトール・ムンディ」は、じっさい4億5,000万米ドルで落札された。しかしそれ以外の、たとえばシスティーナ礼拝堂の天井に描かれたミケランジェロの大作などは、そもそも販売自体が不可能だ。それではその絵は価値がないのかと言えば、もちろんそんなことはない。そういったアートは、もとより価格では測れないのだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article
Translated by Conyac
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