「中国国営企業を止めなければ」日米欧の中国包囲網、主導した米の不満とは
◆「中国の美辞麗句を信じるな」
米シンクタンクCenter for the Presidency & Congress(CSPC)のシニアアドバイザー、シャーマン・カッツ氏は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に、「なぜWTOは中国国営企業の力を抑えなければならないのか」と題した記事を寄稿。中国を牽制する今回の動きを「正しい方向に向いた一歩だ」と歓迎している。
カッツ氏は、中国が恣意的に優遇する産業を決め、国有企業を通じて豊富な国家予算を投じる行為はWTOが目指す自由貿易から著しく逸脱していると指摘。その結果、現在、中国製の鉄鋼、アルミ、ソーラーパネルといった製品が世界市場に溢れ、価格の下落を招いているとしている。これにより「文字通り何百ものアメリカのソーラーパネルメーカーが廃業に追い込まれた」と同氏は言う。
当の中国の習近平国家主席は、事あるごとに「自由貿易の推進」とWTO支持を表明し、こうした批判を否定している。これに対し、米貿易問題専門家、グレッグ・ラシュフォード氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した記事を通じて「中国の美辞麗句を信じるな」と牽制している。同氏は「我々は多国間主義を支持し、ともに成長することを追求すべきだ」といった習主席の公式発言とは裏腹に、中国は「WTOの交渉の現場では、自由貿易の擁護者とはほとんど言えない状態だ」と指摘。インドや中南米、アフリカの本当の発展途上国と徒党を組んで、正反対の保護主義的傾向を推し進めていると批判している。
◆TPP脱退のハンデを取り返す起死回生一手?
日米欧の共同声明は、中国で現地生産する外国企業が、技術移転を強要される事例が相次いでいることも指摘。また、中国当局が外国の情報関連企業に対し、重要データを中国国内のローカルサーバーに保存することを義務付けていることも、機密情報漏洩に結びつく不当な措置だとしている。
ラシュフォード氏は加えて、中国が、WTO加盟国が進める水産資源の乱獲につながっている政府補助金を抑制する取り組みに抵抗していることや、WTOの政府調達協定(GPA)に不参加のままであることを挙げ、口とは裏腹にWTOの施策に非協力的だと批判。「中国が今後も貿易相手国を犠牲にしたまま特別扱いを求め続けるかどうか」に、同氏は注目している。
CSPCのカッツ氏は、実は既に、前オバマ政権がTPP交渉で国有企業に対する規制を提案し、日本を含む11ヶ国が合意していた指摘。トランプ政権によるTPP脱退で中国への牽制が遅れ、米企業の国際競争力が低下したのは皮肉な結果だと書く。それだけに、遅きに失した感はあるものの、今回の共同声明発表は起死回生の一手だったと見ているようだ。「国有企業に対する規制が、今年、さらには来年、WTOに取り入れられることはないだろう。実現するためには何年もの話し合いが必要だ。しかし、その一歩を踏み出す価値はある」と、一定の評価はしているようだ。
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