矛盾する中国の目標:市場のさらなる自由化と共産党による統制の強化
【北京・AP通信】 5年を任期とする習近平総書記(国家主席)の2期目の発足に伴って、中国共産党は、より自由な市場と起業家への支援を公言しつつも党がビジネスの世界で果たす役割の拡大に取り組んでいる。
共産党は国有企業に対する統制を強めつつあるほか、一部の外資系企業の経営に口を挟もうとしている。エネルギーその他の分野を独占している国有企業は、合併によりますます巨大化している。AlibabaやTencentといったテックの巨人を含む、成功を収めている民間セクターとつながり、その技を利用しようと目論む企業もある。
中国政府が相反する目標を打ち出しているため、急増する債務や欧米との貿易面での緊張に対処し、冷え込みつつある経済を活性化させるのに必要な改革を、中国の指導者は先延ばしするのではないかという懸念が広がっている。
「壮大な構想など皆無。互いに矛盾する別々の目標があるだけ」で「ある時点で、どちらが勝ることになるかは分からない」と、北京の調査会社Trivium/China のエコノミストであるアンドリュー・ポーク氏は話している。
5年に1回の開催で、習総書記の再任が決定された党中央委員会では、大きな政策変更が発表されなかった。共産党は、2018年初頭に立ち上がる新政府の設立準備のために最高指導部である政治局常務委員を指名する。
雇用や事業機会の創出、もしくは経済活動の停滞により、人選の影響が一般国民に落とし込まれるまでは一定の時間がかかるだろう。
先月25日に開かれた中央委員会の冒頭、習主席は起業家への公式な支援のほか、市場の力に「決定的な役割」を担わせると公言したが、同時に国有企業による支配も強調していた。
習主席は「公的部門の統合と発展に向けた取り組みは躊躇すべきでない」と、全国向けのテレビ放送で語った。
先月26日に発表された統計によると7~9月期の経済成長は、旺盛な個人消費と輸出の好影響を受け概ね安定していた。経済成長率は6.8%、前期の6.9%と比較して微減だった。
投資家は、共産党の求める方向性およびその実行速度を、中央委員会を通して探っている。注目材料は、影響力を失う恐れのある党内や国営企業内の派による反対圧力に打ち勝てるほどの個人的な影響力を持ち、改革派と目される習氏側近にあてがわれる役職だ。
2012年に習氏が権力を掌握して以降、指導部は、危機的水準に達した国家債務問題への取り組み、国営事業の影響力低下、中国で新規雇用と富を生み出す起業家の役割拡大という公約の実現に対し消極的だったとして、改革派は不満を持っている。
事実、習氏は反汚職運動に注力して政治面での統制を強化したほか、活動家的な弁護士を拘束し、ネットの検閲を拡大した。
外資企業の間でも、中国は、低価格製品の輸出で世界市場を席巻し雇用を脅かしているとして非難の的になっている、中国の国営鉄鋼・アルミメーカーの規模を縮小させるという公約の実現にあまりにも時間をかけすぎているという不満がある。
「大まかに言えば、経済改革の点で大きな進歩はみられなかった」と、北京にある独立系経済調査会社Unirule Instituteの盛洪執行理事は話している。
Uniruleのウェブサイトとソーシャルメディアのアカウントは、1月に行われたリベラルな発言に対する当局の取り締まりの最中に封鎖された。
共産党の内なる葛藤は、2013年に行われた宣言に反映されている。共産党は当時、市場の力に「決定的な役割」を与えると初めて公言しながら、党による国営事業への統制を強化するとも謳った。この宣言は、汚職と無駄の根絶を狙いとするものだったと、民間セクターのアナリストは話している。
今年に入り、全ての会社の内部に下部機関を設置し、その会社を規制する当局を統制下におく共産党は、会社の意思決定に対する公的発言権を要求しており、更なる権限拡大を目論んでいると一部の外資系企業は発言している。
中国本土を拠点とし、香港にも上場している32社は、企業統治構造を変更し取締役会の相談役に党を据える提案もしている。金融評論家は、それにより株主に悪影響が及ぶのではないかと不満を抱いている。
ミヒャエル・クラウス駐中国ドイツ大使は、「この状況は大きな問題になる可能性があり、多くの外資系企業が非常に警戒している」と語った。
外資系企業は、特に金融やテクノロジーといった業界へのアクセスが規制されるなか、電気自動車など将来性のある市場で大した地位を得られない可能性がある現状の計画に不満を募らせている。こうした悲観論が広まったことで、今年1~7月の対中直接投資は前年同期比1.2%減少し、年率2桁増の記録は途絶えた。
民間部門による活動の主要な拠点として知られる中国南部の都市、温州のあるビジネスリーダーは、起業家支援に取り組むという習総書記の公約を歓迎した。
「民間企業の成功は、中国経済の成功である」と、温州市中小企業開発促進協会の周徳文会長は話している。
中国当局は、起業家に国有企業(SOE)の支援という無理を強いている。
共産党は9月25日に行った宣言の中で、「起業家精神」を促進するとした一方で、起業家に「社会主義的な中核価値」を学ぶようにとも述べた。
8月には、中国3大国有電話会社の一角China Unicomが、売上ベースで世界最大のeコマース企業Alibabaや人気ソーシャルメディアWeChatを運営するTencent、ネット検索の巨人Baiduを含む民間投資家に117億ドル分の株式を売却した。しかしこの3社が電話会社の経営に口を出す権利を得られるという示唆は一切なかった。
9月には、Tencentが 3億6,600万ドルを投じて中国国営の投資銀行China International Capital Corp(CICC)の株式を5%取得した。CICCはTencentのマーケティングその他のスキルにアクセスできるようになるが、民間企業のTencentはいかなる経営権も与えられなかった。
他の国営企業も、民間の株主を取り込む同様の計画を発表している。
他方、ウォールストリートジャーナルが情報源は匿名で報じたところによると、中国当局は国がAlibabaやTencentの株式を直接保有することも検討しているという。
「『混合所有』といった国有企業の改革案は、およそ改革とは呼べない」と、盛氏は話している。「企業内への党組織の設置など、改革はおろか、むしろ後退している」。
中国政府は8月、世界最大の石炭製造企業Shenhuaと電力供給大手のGuodianの合併を発表した。これにより資産規模で世界最大の公益企業が誕生する。
「巨大で、強力で、優れたSOEを求めているのは明らかだ。それも国ではなく、党の所有物としてだ」とポーク氏は話す。
何かしらの対策を打つよう、圧力は高まっている。
経済成長は、融資の過熱や政府による経済対策が下支えているが、それは消費者主導の経済を作るという政府の取り組みを退化させている。
開発途上国にしては異常な高さともいえる、国内総生産(GDP)の260%にまで達した債務残高の抑制に向け当局は融資を統制しており、経済成長は落ち込むと予想されている。
エコノミスト・インテリジェント・ユニット(EIU)は、自社レポートの中で次のように述べている―「中国内の銀行部門の限界は、すでに明白である」。
By JOE McDONALD
Translated by Conyac