アベノミクス・ラウンド2に海外から期待と注文の声 「早く第3の矢を」

flickr / CSIS: Center for Strategic & International Studies

 22日の衆院選で自民党が大勝し、安倍政権の続行が決定した。海外メディアと識者は安倍政権下での政治的安定を好感し、最近好調な日本株にもさらによいニュースになったとしている。日本ではその是非を問われているアベノミクスにも、概ね継続が期待されているが、これまで以上の改革も望まれている。

◆上がる、上がる日本株。安倍勝利の安定感も弾みに
 10月24日に日経平均株価は16日続伸という過去最長記録を達成し、日本株はこのところ絶好調だ。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリストは、衆院選の結果は、政治的安定が回復することで株式市場にとってはポジティブなものになったと述べ、中期的に市場をサポートすることになるとしている(CNBC)。

 ブルームバーグは、安倍首相の勝利により、日銀の大規模景気刺激策の続行に青信号が出たとし、アベノミクスへの支持も勢いづくだろうとしている。ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、増島雄樹氏は、4月に任期を終える日銀の黒田総裁再任の可能性も高まったと見ており、これは日銀の政策枠組みが変わらないことを意味するとしている。

◆やっぱり成功? 円安&株高はアベノミクスの産物
 ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、ノア・スミス氏は、しばしばアベノミクスは失敗だったというニュースが出て来るものの、1980年代以来、日本経済がここまで良くなったことはなく、失業率の低下、中小を含めた企業業績の改善などを見れば、アベノミクスは成功だと主張する。これは金融政策の力を信じた人々の勝利であり、日銀の異次元の金融緩和は持続的インフレをまだもたらすことはできていないが、企業改革を促進し、円安、輸出の増加を生んだとしている。

 ゴールドマン・サックス証券のチーフ・エコノミスト、馬場直彦氏は、安倍首相が野心的インフレターゲットを目指したことによる最大の明白な結果は、円安と株高がもたらされたことだとしている。2012年12月に安倍政権となってから、円は20%以上下落し、日経平均株価はざっと2倍になっている(ブルームバーグ)。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、日経平均株価は今年13%上昇し、そのほとんどは9月初旬からのものだと述べる。中国やアメリカの堅調な成長が押し上げに貢献し、輸出も好調だと述べている。日本株は世界の標準からみれば今でも比較的安いとみられており、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの調査では、日本株をオーバーウェイト(資産配分を高くする)にするとしたファンド・マネージャーは9月には12%だったが、最新の調査では23%に増加しているという。

◆アベノミクス継続確実。ただ持続可能かは謎
 ようやくアベノミクスが効いてきた印象の日本経済だが、その継続を期待すると同時に、数々の問題点も指摘されている。CNBCがインタビューした金融の専門家からは、「大規模金融緩和、中央銀行の資産買入れ、包括的資産インフレ政策に過度に頼っている」とされており、これらが流動性の低下と市場の乱高下の増加の危険を高めると警告されている。

 ブルームバーグは、各国が緩和縮小に向かうなか、日本だけが緩和継続となれば、円安が進んで輸入物価が上昇し、2%のインフレターゲット達成を助けるかもしれないと述べる。しかし安倍首相の処方箋への批判は多く、国内でも野田聖子氏、河野太郎氏などから、出口戦略への懸念が示されたと報じている。すでに日銀のバランスシートはGDPに匹敵する規模となっており、政策が持続可能かどうかという疑問がなくなることはないとするが、安倍首相勝利でそういった意見はしばらく脇へ追いやられるだろうと見ている。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券のロバート・フェルドマン氏は、安倍首相が消費増税実行に際し、新たに教育無償化を加えたことを懸念する。安倍首相の選挙スタンスは「大きな政府への穏やかなシフトを示し、財政改革がどのように達成されるのかが明らかにされていない」とし、「新政府がそのスタンスを明らかにするまでは、経済政策の方向性については、投資家は混乱したままだ」としている(WSJ)。

◆生産性向上がカギ。「第3の矢」の促進を
 金融緩和ばかりで、「第3の矢」である構造改革のペースが遅すぎるという批判もある。ドイツ銀行のTuan Huynh氏は、CNBCの番組の中で、改革の兆候は出ており方向性は正しいが、第3の矢が弱すぎると指摘。日本株のパフォーマンスが改善したとはいえ、他のマーケットに比べれば評価が低いのは、そのせいもあると述べている。

 前出のスミス氏も、アベノミクスはとても完成とは言えず、今こそ第2ラウンドに入る時期だとする。高齢化のなか成長を続けるためには生産性を上げなければならず、働き方改革をはじめとする数々の改革が必要だと断じる。その一方で、すでに行動を起こしているという点では、日本政府は他の裕福な国々より全般的によくやっているのではないかとし、アメリカの共和党政府も、安倍首相の成功から少しは教訓を得て欲しいとしている。

Text by 山川 真智子