金融業界は、AIとロボティクスによる雇用喪失の影響を大きく受けるだろう
◆保護される雇用も
しかし、銀行業務の世界に訪れたこの変化の気運の中で、変化に対し比較的強い耐性をもつ役職の存在が明らかになっている。予測不能な、もしくは、本質的に「人」に主点を当てた仕事は生き残ることになりそうだ。カスタマーサービスの担当者は、決まりきったアルゴリズムからの出力ではなく、人間の気持ちが産み出す複雑な問い合わせには否応なくこれからも対処する必要がある。人工知能はほとんどの問い合わせに対応できるが、極めて難解で不可解な質問については必然的に生身の回答オペレーターにバトンを渡さねばなるまい。たとえば、抵当権付きの住宅ローン締結は、自動生成メッセージとともに完了できるが、込み入った複雑な問い合わせに関しては対面での相談の場を設ける必要がある。
給与水準の中で最も高額な位置に身を置く上級幹部は、個々の組織の進むべき方向への舵取りを継続するだろうが、仕事の本質は微妙に変化しており、テクノロジーに基づいた意思決定を行っている。経営幹部はリスクの高い投資の決断を直接は行わず、代わりにコンピューターが提供するアルゴリズムを選択したり、従業員を雇用する際には志願者にインタビューする代わりに人工知能を備えた機械に頼るようになったりするだろう。ビジネスの他のレベルにおける賃金総額の削減と、人間が実施する必要のある意思決定をなるべく少ない人数で行う重要性の高まりが彼らの高額な年次賞与の正当化に寄与することさえある。
◆不可避の変化
従来の銀行部門は、人工知能と自動化を採用することで、競合他社に対し明らかに優位に立つことができる領域だ。これは、部分的には、これまで変化をなかなか受け入れようとしなかった結果でもある。1990年代の後半、2000年問題による不具合にまつわる集団的な狂騒と、西暦2000年台の日付に対処できなかったコンピューターの大規模な操業停止の恐れが世間を賑わせた。これが急速に変化する技術革新と金融分野の緊密過ぎる関係への危惧を浮き彫りにした。しかし、この公然のパニック状態においてさえも、即座に発生した現実的な変化はほとんどなかった。
現在、N26やMonzoといった支店を持たないモバイルアプリ専業の銀行は、従来の銀行部門の形態や時代後れの人的資源の打破に向け、果敢に挑戦している。伝統的な銀行では、以前として人間がその大半の業務を行うという志向性が強い。2016年には、百万人以上、もしくはイギリスの労働人口の3.1%の人がイギリスの金融サービス業に従事していた。彼らはイギリス経済にとって最大の所得税源であり、最大の輸出者であった。大方の予測は、金融分野でのおよそ50%の仕事が喪失することになるだろう、としている。誰に話を聞くかによっても返答は異なるだろうが、仕事喪失のプロセスに掛かる期間は5年とも20年とも言われている。
これらの変化の影響は、経済界全体において感じられるものとなろう。そこには、人工知能、ロボティクス、および完全なデジタルビジネスが貧富の差を著しく拡大しうるという純粋な恐怖がある。
ドイツ銀行最高経営責任者、ジョン・クライアン氏は、デジタルビジネスが現実になるにつれ、銀行を筆頭にあらゆるところで雇用が先細りになっていく未来を率直に認めている。この変化が現実のものとなり、その結果、イギリスなどあらゆる国々でベーシックインカムの導入や社会的便益への要求が再び高まった。この提案は、新しい世界において個人レベルでの繁栄を維持する手段として、いくつかの欧州議会議員の支援を受けた。そして、さらに完全な自動化を標榜するデジタルビジネスの時代においてベーシックインカムは現在の欧米経済の基盤を強く維持しようとするだろう。この目標が達成されれば、現在の財務部門および銀行部門の事業もおおむね継続できるはずだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by ka28310 via Conyac
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