金融業界は、AIとロボティクスによる雇用喪失の影響を大きく受けるだろう

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著:Gordon Fletcherサルフォード大学 Co-director, Centre for Digital Business)、David Krepsサルフォード大学 Senior Lecturer in Centre for Digital Business)

 ドイツ銀行最高経営責任者、ジョン・クライアン氏は財務部門の全体で自動化が進行していくにつれて、業界での雇用機会が失われていく、と予測している。彼が正しいことをいまにも証明してくれそうな兆候があちこちに見られる。

 業務遂行に体系的な知識が必要となる金融分野でのそれらの役割は、やがて消えていくであろう。人間と同等の働きをする人工知能やロボティクスの現在のレベルの高低、訓練の熟度、そして経験の深浅に関わらず、やがて消えゆく。組織で行われる定期的かつ反復的な作業は、既にすべてのレベルにおいて人間が実施する必要が無くなっている。仕事の内容のすべて、もしくはその多くがこれら一連の決められた動作の繰り返しで構成されていればいるほど、その仕事に携わる人が演算能力の高いコンピューターに置き換えられる危惧は強まる。

 その警告となる兆候は、経済界の多くの分野における大規模な仕事の喪失に対する恐れと混然一体となった人口知能に関する熱狂的な報道として長年にわたり発せられてきた。

 完全にデジタル化された経済界へ向かう流れの中で、多くの役割はもはや消滅したのも同然だ。高齢者の方々は、植字工、タイピスト、さらには交換機オペレーターや郵便局内で働く配送物の仕分人が前世紀の仕事の典型として思い浮かぶことだろう。そして、仕事の本質は容赦なく変化していく

◆銀行の業務
 金融分野では、かつては人間の判断と意思決定によって業務を推進していた。しかし、時間を掛けながらその状況は変化した。1990年代には、顧客が地元の銀行支店長と交わす一対一の会話は、台本通りに進むコールセンターとのやりとりに置き換わってしまった。今日では、演算能力の向上、巨大なクラウドストレージ、強力な暗号化およびブロックチェーンの適用の増加によって、以前であれば人手の介入なしでは複雑すぎて迅速かつ一貫した処理が出来なかったタスクも自動化できるようになった。

 人工知能は、事象を分析したり、一貫した判断と決定を下して適用したりすることが求められる人間労働の必要性を小さくしている。これらは、法務や財務における多くの活動の中核となる行動である。その背景では、合意形成の契約にもとづき、公に共有されている自動化台帳であるブロックチェーンと組み合わせ、二者間での信頼関係を何らかの形で必要とする取り決めに関しても、人手の介入は皆無もしくは最小限で完了することができる。

 ブロックチェーンはあらゆる暗号通貨(オンラインで取引ができる通貨の形態)の基礎となっている。銀行は、これらのような代替通貨のしくみを採用していく方向にゆっくりと歩みを進めている。このような代替通貨は、人目を惹きつける華々しいタイトルと共に報道されるが、その背景には、金融の分野において誰しも従わざるをえない自動化が進んでいる、という局面がある。可能な限り多くのプロセスから人間の意思決定の影響を排除することで、完全にデジタル化されたサプライチェーンが構築される。すべてのプロセスが発生するたびに人工知能がその影響と効果をより深く学習していくにつれて、従業員数はますます減少しながらも銀行の業務効率は継続的に改善され、利益は増加していく。

Text by The Conversation