インドの新幹線、着工へ 「日本の卓越した技量のシンボル」と現地は大きく期待
インドで高速鉄道の起工式が今週行われ、日本から安倍首相が出席する予定となっている。日印の協力関係を象徴するこのプロジェクトでは、日本の新幹線をモデルとして技術移転が行われるほか、経済面でも日本から低利子での融資が行われる。インドでは富裕層しか乗れない飛行機、安全性の低いローカル電車、環境負荷の大きな自家用車などが主な交通手段となっているが、高い日本の技術を投入したインド版新幹線への期待は大きい。
◆「トータルシステム」のアプローチで高い安全性を実現
日本の新幹線の安全性は、インドの現地メディアにも大きく評価されている。インディア・トゥデイ誌は「1964年に開業した新幹線ネットワークは輝かしい安全性の記録を持ち、53年間の営業中に一度も事故は起きていない」と賞賛する。厳密にはホームや車内での死亡事故と事件は皆無ではないが、ともあれ高い安全性はインドにも知れ渡っているようだ。同紙はハードだけでなく、運営、メンテナンス、研修などの「トータルシステム」でのアプローチが奏功しているとし、インドの高速鉄道の成功にも期待を寄せる。
インディアン・エクスプレス紙でも新幹線の遅延時間が平均1分を切るほか、安全性で知られることなどを紹介し、これらの技術がインドに導入されることを歓迎している。今回のプロジェクトに関連し、シミュレータを備えた専用訓練施設をインド国内に建設中であり、また、300人の若手鉄道職員らが日本で研修を受けるとのことだ。ハードとソフトを両輪とした技術支援に大きな信頼を寄せている様子だ。
◆技術移転と、有利な条件での融資もインドを大きく支援
日本方式の新幹線が好まれているのは安全性以外にも理由がある。インディアン・エクスプレス紙では、「現地生産」と「技術移転」が本プロジェクトの柱だと捉え、関連産業の成長に期待する。過去の例としては、日本のスズキが現地子会社を設立して以来、現在までに250近くの部品製造業者が現地に生まれたとのことだ。ハードを自国生産で囲い込む国もあるなか、技術移転を惜しまない日本の方策は歓迎されているようだ。
また、インディアン・エクスプレス紙は、日本がインドに低金利のソフトローン(途上国向けの融資条件の緩い融資)を提供していると報じる。通常2国間の融資は利率3~7%、20~30年で償還という条件が一般的だが、日本は利率0.1%、50年で償還という好条件を示している。これについてインディア・トゥデイ誌は、日本企業の子会社をインドに増やしやすいなど、プロジェクト全体で見ると日本側にも長期的なメリットがあると分析する。支援を通じて双方に経済的メリットが発生する理想的な形になっているようだ。
◆成功が望まれるプロジェクトだが一部に課題も
日印両国が成功を望むなか、すでにいくつかの課題も指摘されている。ヒンドゥ紙では、プロジェクトの優先度を疑問視する声があると報じている。最近現地では23人が犠牲となる鉄道の死亡事故があり、新規鉄道よりも既存路線の安全性確保にリソースを投じるべきとの声があるようだ。
また、インディア・トゥデイ誌は高速鉄道のプロジェクトの遅れを懸念している。官僚主義による遅延、インドで優秀なパートナー企業を見つける難しさ、難解な労働法などの問題により、関与を見送る日本企業が散見されるとしている。さらに同誌は、金融センターの建設を優先したい州政府が鉄道ターミナル用地の提供を拒むなど、インド政府と地元自治体の対立も指摘している。
とはいえ、巨大プロジェクトに課題は付きものであり、今後の取り組み次第で改善する余地は十分にあるだろう。ヒンドゥ紙は「50年以上前の開業以来、新幹線は日本のエンジニアリングの卓越した技量のシンボルであった」としており、日本の技術力は海を越えたインドでも待望されているようだ。