ウーバーの新価格モデルの背後にある経済学

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著:Jordi McKenzieマッコーリー大学 Senior Lecturer in the Department of Economics)

 ウーバーが料金計算の方法を変えようとしている。新システムでは、顧客の行き先が富裕層の住む郊外の住宅地かどうかなどの要因に基づいて顧客が「支払う意志のある」料金に変更する。この変更は穏やかな怒りをもって迎えられているが、「価格差別」と呼ばれる慣行は実際、一般的によく行われている。

 価格差別とは、ある企業が消費者の製品に置く価値と実際に支払う金額の差額を理解しようとする試みをいう。各企業は、異なる消費者に異なる価格をつけ、支払い意欲の差を探ることにより差別化を実施する。

 これは消費者に費用負担をさせているように聞こえるが、経済理論は一定の条件を満たせば社会全体が恩恵を受けることを示している。例えば、ウーバーの新価格設定が新市場への参入または消費者の待ち時間の削減につながるとすれば、価格の差別化によって社会全体の福利を向上させることができる。

 価格差別は、外気の温度が上がるにつれ炭酸飲料の価格が上昇する悪評高いコカ・コーラの自動販売機やピンクの女性用カミソリに対する高い価格設定というように、様々な形態をとる。

 火曜日は映画館の入場券が安い劇場コンサートでチケットの値段が異なる、製薬会社が製品の価格を国によって変えている、車の販売代理店が交渉次第で値段を下げるというのも別の価格差別の例だ。

 航空業界はよく価格差別の代表だと考えられている。実際の飛行ルートはいうに及ばず、予約する時間、予約する席のタイプに至るまで、料金のほとんどあらゆる側面で価格は差別化される

 ウーバーがこのようなシステムをこれまで導入してこなかったのが不思議なくらいだ。ウーバーの成功は、特に「料金急騰」システムを用いて自由市場を巧みに模倣するビジネスモデルによるところが大きい。

◆価格差別とは
 価格差別とは同じ製品またはサービスに対して消費者の「タイプ」によって異なる価格を課金する慣行を指す。

 大ざっぱにいうと、「タイプ」は目に見える特徴(年齢、性別、居住形態など)または消費者の行動や嗜好(クーポン割引、早割、タイムサービスなど)を通して明らかになる目に見えない特徴などに基づいている。

 仕組みにかかわらず、目的は消費者間の「支払い意欲」(WTP)を探ることにより利益を拡大することにある。WTPとは特定の商品またはサービスに対して消費者が支払うであろう最大の金額だ。消費者によって収入やその他の状況が異なることを考慮するとWTPによって各企業が価格差別を通して引き出すことができるチャンスが提示される。

 経済学者は一般的に、価格差別を第一種、第二種、第三種の三種類に分けている。

 第一種価格差別は最大の利益を生む。支払う意志がある最大価格を支払う各消費者と、すべてのWTPを抽出する企業が関わっている。

 一部のインターネットオークションを除くと、純粋な第一種価格差別というのはあまりない。しかし消費者が現在の料金に加えて固定料金を支払う場合、単一価格がアクセスと(限定された)消費をカバーする場合(データに制限のあるインターネットサービスなど)はこの変形に相当する(水道料金の価格設定など)。このような価格設定システムのオプションが適切に設定されている場合、可能な最大利益を得ることによって第一種価格設定を模倣している。

 第二種価格差別は大量購入に対する割引に関係している。一般的に第一種ほどの利益は得られないが、第二種価格差別は依然として単一な均一価格設定(すべての消費者に単一価格が課金される場合)による利益を上回っている。

 この種の価格設定は、目に見える特徴によって消費者に識別されることを必ずしも必要としていない。むしろ、消費者の購入を通して価格差別の「種類」が明らかになる。例えば、スーパーで缶入り炭酸飲料24本パックを購入する消費者は一般的に缶1本を買う消費者に比べて(1本あたりの)割引を受ける。

 第三種価格差別には、支払い意欲に基づいた市場の異なるセグメントに対する同じ商品やサービスの販売が関係している。これは、地理や年齢といった識別可能な消費者属性を用いて導入される。大人と学生に異なる課金を行なう鉄道会社などがその一例だ。

◆地理に基づく価格の差別化
 ウーバーが採用しようとしているのはこの第三種価格差別だ。一部の消費者は同じ距離に異なる金額を支払うことに異議を唱えているが、価格決定に関していえば、地理的特徴を利用している企業はウーバーが初めてではない。

 他の多くの企業も同様に位置情報と企業が扱う市場の消費者の支払い意欲を(暗黙的に)価格決定の基準として用いている。例えば、有名な観光地のコーヒーショップ、レストラン、バーの価格は付近の同様の店舗と比較して明らかに高い。これはある程度コスト高を反映していると言えるかもしれないが、価格差全体の典型的な説明にはならない。

 微妙なのは、経済学者らが「正味価格」と称しているものだ。これは、同じ商品の別のバージョンの価格差がコストの差を反映していない時にのみ発生する。

 それでは、顧客の位置情報に応じて課金しようとしているウーバーの計画はユーザーが通りに繰り出して大規模な抗議行動を繰り広げるようなものなのだろうか。おそらくそうではあるまい。結局、これはウーバー自体が独占企業たらんとするものではない。タクシーは常にウーバーの代替えとして存在する。もちろん、タクシー業界は、これまで常に多少の価格差別に非常に好意的だった。ただそれに長けていないだけの話だ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by サンチェスユミエ
The Conversation

Text by The Conversation