研究結果:出産を境に女性の財産は減少する
◆財産の男女間格差によりどのような問題が起こるのか
子どものいる男性、子どものいない女性の個人財産に比べ、母親の個人財産は少なくなる。これにはいくつもの重要な問題が含まれている。
毎年の所得とは別に経済的資産や貯蓄があれば、もしもの時の備えとなる。多くの財産があれば、子どもに譲る、子どもの教育に投資するという選択肢も出てくるだろう。親の財産はそのため、子どもの幸福度にも影響するのである。
生活を共にするパートナーが裕福であれば、女性の財産が少なくてもさほど問題ではないように思える。しかしすでに述べたように、夫婦だからと言ってすべての財産を二人で分け合うというケースは稀である。
そしてどのような場合においても、女性は家庭内での貧富の差を苦痛に感じている。パートナーと比べ、わずかな個人財産しか持たないドイツ人女性は、主観的な幸福度が低いと回答したという調査結果がある。またエクアドルとガーナで行われた研究では、女性の個人財産がパートナーに比べて少ないと、近親者間暴力のリスクが増加するという結果が得られた。ただしドイツや他の国でも同様の結果が得られるかは不明である。
どのような形であれ、母親と父親の間にある経済的な格差は、子どもの幸福度を左右する。母親が比較的多くの財産を所有していれば、子どもの幸福度は向上するのである。夫婦が離婚した場合にも、夫婦間にあった格差はその後も2人の格差として影響し続ける。
◆各国の男女間格差
我々が子どもをもつ男女の個人財産を調査したドイツでは、女性が多くの場面で男性と同等の地位を獲得している。それにも関わらず労働に関しては、男性が一家の大黒柱であるという旧式の考えが今なお主流であることがわかった。
データがやや不十分ではあるが、アメリカにも財産の男女間格差があることを示した調査結果がある。また中国、日本、ナイジェリア、イギリスなど世界各国でも、所得の男女間格差を示すエビデンスが見つかっており、個人財産にも格差があると推測される。
スウェーデンのような平等主義社会では、子どもが生まれたとしても両親の財産に大きな格差は生じない。
反対に、女性が男性と同等の法的身分を与えられていない国においては、母親と父親、女性と男性の間に、より大きな経済格差が存在しており、夫婦間でもこの差が縮まることはない。
例えば夫婦の資産は男性が稼ぐものとされるガーナでは、夫婦が所有する財産のうち、妻の所有分は約20% に過ぎない。インドの一部地域にも同様の格差が存在する。
それとは対照的に、男女の身分を平等とする法整備が進んでいるエクアドルでは、財産の夫婦間格差はほとんどない。