研究結果:出産を境に女性の財産は減少する
著:Philipp M. Lersch(ケルン大学 Postdoctoral Researcher in Sociology)
子どもには直接的にも間接的にも多くの費用がかかる。そして多くの社会において、ほとんどの場合、女性にその負担がのしかかっている。
我々は最近の調査研究において、ドイツ人を対象とし、子どもの親となることで経済的にどのような影響があるのかを男女別に調査した。その結果、子どものいない女性と比べると、子どもを持つ女性の手元に残る財産が少ないということがわかった。
しかし男性の結果を見ると、学歴や年齢といった条件が同じであれば、子どもの有無で所有する財産に差はなかった。
◆母親になることで、個人財産が減少する
2002~2012年の10年間にわたり、ドイツ人28,650人の個人財産を調査、比較することで、女性の個人財産を評価した。本研究における個人財産とは、調査対象者が単独で所有するすべての経済的資産と、他者と共同で所有する資産の持分を合わせたものとする。
第一子出産後の各年における女性の財産を調べたところ、子どものいない女性の財産が1ユーロ増加した場合、子どものいる女性の増加分は約98セントしか増加していないことがわかった。わずか2セントの差だが、積み重なれば大きな差となる。母親となって50年が経過した後、子どもの有無以外の条件がすべて等しい女性の個人財産を比較すると、母親の個人財産は約60% も少なかった。
縦軸:個人財産 横軸:年齢
点線:子どものいる女性 (25歳で第一子が誕生)
実践:子供のいる男性 (25歳で第一子が誕生)
このような差を生む大きな要因となっているのが、働き方の違いである。ドイツ人の母親は育児に専念するため一旦仕事を辞め、子どもが成長してからパートタイムの仕事に復帰する傾向にある。
仕事を再開できても、フルタイムで働いていた頃に比べると所得は減少するため、女性が貯蓄に回せる額も少なくなる。パートタイムではキャリアアップの機会も限られるので、長期的に見ても収入が増える見通しは少ない。
我々の研究によると、女性のパートナーである男性には、夫婦で収入を分け合い、出産後の女性の損失分を補おうという意識がないようである。
また女性の出産時の年齢が若いほど、個人財産の損失額は大きくなる。早い段階でのキャリアの中断が、後に大きな弊害となることが原因と思われる。
出産時に結婚していない場合には、母親の個人財産がさらに少なくなる。シングルマザーでも、パートナーと同居しているが未婚の母親でも同様の結果が得られた。このことから、母親と父親が婚姻関係にある方が、父親に配偶者の所得の減少分を補おうとする姿勢が見られ、夫婦間で所得を分け合う傾向が高いことがわかる。
中年期 (40~60歳)に、母親と父親がそれぞれ所有する財産の差が最大となる (上記グラフ参照)。さらに年齢を重ねると、この差は縮まる。
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