中国の投資家がオーストラリアの不動産に惹かれる理由とは

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著:Erika Altmannタスマニア大学 Qualitative Researcher), Zhixuan Yang(Lecturer in Real Property Development and Management)

 オーストラリアの住宅価格が上昇している。その原因としてしばしば挙げられるのが、中国の投資家の存在だ。ただ、今後数年間でその需要も減少していくことになるかもしれない。そこにはいくつかの要因が絡んでいる。

 2016年に発表された報告書によると、中国人よる居住用不動産投資は減速傾向にあるという。両国間の賃貸利回りの差が縮まり、また住宅価格の上昇に伴って、オーストラリア不動産の魅力が減退しているのだ。中国都市部での居住用不動産所有制度や個人投資の金融規制が解除されたことも一因だと考えられる。

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 中国には、個人資産が134万豪ドル(約1億1100万円)を超える富裕層も数多く、またビリオネアも568名を数える。その資産を合算すると、オーストラリアのGDPに匹敵するほどだ。

 多くの中国人投資家は合法的な収益の他に、公にならない収入や財産を所持しているため、その両者の投資先として海外不動産に注目が集まっている。背景にあるのが中国国内の住宅バブルだ。

◆なぜオーストラリアが魅力的なのか
 2015年、中国の投資家がオーストラリアの商業用および居住用不動産に投資した額は全体で約68億豪ドル(約564億4千万円)だ。現在、オーストラリア外資審査委員会(FIRB)は、流入する不動産投資資金を新築住宅に向けることで建設業界に新たな雇用を創出し、経済成長を支えていくという姿勢を見せている。

 オーストラリアに一時滞在する場合、出国時には中古の住居を売却しなければならないにしろ外国人にも現地で新築住宅を保持、賃貸、販売さらに居住することが認められることが多い。これが新築住宅に投資する中国人を呼び込む主要ポイントになる。

 他にも、オーストラリアには投資家にとって魅力的な要素がある。金融機関が中国よりも安定していること、不動産市場が活発であること、土地所有権制度の規制が整備されていること、主要都市の資産売却益率が高いこと、そして頭金の額が少ないことなどだ。

 オーストラリアのFIRBも国内住宅市場に流入する海外からの投資金には注視しており、これらの要因にも警戒しているのかもしれない。しかし、それでも中国の不動産規制法や投資家ニーズといった海外投資への追い風と苦闘しているのが現状だ。

◆中国国内で生まれる要因
 中国の経済状況や規制環境もまた、中国人投資家の目が海外へと向かう要因だ。中国通貨の価値下落は非常に大きな影響力を持つ。人民元の価値が下がるにつれ、中国の投資家は何を、どこで購入できるのか再考するようになる。

 オーストラリア主要都市の賃貸利回りは2〜3%で、中国の2倍だ。また、中国では居住用不動産投資の法律が改訂されたことにより、オーストラリアがより魅力的に映るようになったのだ。

 中国では農村部と都市部でまったく異なる不動産所有制度が敷かれている。農村部の土地は、地区ごとの農村集団が所有している。土地の売買は、同じ農村集団のメンバー間でのみ認められている。

 このシステムによって農村部の土地競争が制限され、価格も抑えられる。その分、投資先としての魅力に乏しいため、中国人投資家には背を向けられてしまう。

 一方、都市部の土地は、いまだに国家が所有しており、それを住宅所有者に対して70年間貸与するというシステムになっている。このシステムでは都市部の住宅所有を、都市戸籍を持つ者、もしくは同じ都市に5年連続して居住、納税している住民に限定している。この状況が多くの中国人を都市の居住用不動産から遠ざけてしまっているのだ。

 2011年から2015年の間、適切な戸籍を持った者の都市部不動産取得が、居住用と投資用の計2軒までと制限された。北京ではいまだにこの規制が敷かれたままだ。

 これは、住宅市場から締め出される人が増える中で、住宅価格不安が高まったことを受けて策定されたものだ。そして、居住用不動産購入時の頭金を価格の30%に設定したことから、問題はさらに深刻化する。これらの複合的な要因により、多くの中国人投資家が不動産購入のため、所有権が不明瞭な中国の非合法市場や国外の投資機会に手を伸ばすことになった。

 中国国家外貨管理局は、2016年11月に中国からの資本流出を制限するため、新たな規制を導入した。中国から500万米ドル(約5億5500万円)以上の海外送金を行う場合には、中国国家外貨管理局の承認が必要となった。ただ、オーストラリアで住宅購入する場合、この限度額を下回るケースがほとんどだ。

 2017年には個人投資家の年間外貨保有額を5万米ドル(約555万円)に制限する新たなルールも導入された。

 オーストラリアにある中国の大手開発会社は、個人向けの住宅ユニットを「オフ・ザ・プラン(予約販売形式)」で中国の不動産投資家に直接販売することで知られている。この場合、デベロッパーは契約締結のため、新たな外貨保有規制をくぐりぬける方法を懸命に模索することになる。ただし、デベロッパーが各々メソッドを構築するには時間がかかるだろう。

 一般的に、住宅価格が上昇するにしたがって賃貸利回りは低下する。投資家が不動産取得のために借りる金額がその後の賃貸収入に比べて大きくなるからだ。

 メルボルンとシドニーでは家賃が大幅に上昇しているものの、住宅価格の上昇ペースには追いついていない。主要都市の賃貸利回りは低下している。

 賃貸利回りが1〜1.5%の中国では、労力に見合う価値があるのか、と不動産の賃貸を再考する投資家もいる。賃貸物件を空室のままにして傷みを防ぎ、資産売却益を得ることで利益を創出しようとしている。この行動が中国国内の賃貸物件供給不足と密接にかかわっているのだ。

 オーストラリアが住宅価格高騰と賃貸利回りの低下に苦しむ中、それに伴って現地の居住用不動産投資が中国人投資家の長期投資先としての魅力を失ってしまう。資産売却益への依存度が高まれば、FIRBの意図に反してオーストラリアの空き物件が増えることになりかねない。

 中国当局が規制を敷いたことで、短期的には中国からの資金流出を抑えられるかもしれない。しかし、中国の投資家は、このような制限を回避する方法を見つけることになるだろう。中国の居住用不動産所有権の制限が解除されれば、中国国内への投資が再注目されることになるかもしれない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
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