ファナック株急落、中国経済減速が影響 「物言う株主」登場後の上昇分帳消しに

 中国株は依然、落ち着かない動きを見せている。日本株もそのあおりを受け続けているが、ここ数日の下落に対しては、以前ほど強く反応していないようだ。29日は中国株が下げ止まり、TOPIX(東証株価指数)は前日より上昇したが、日経平均株価は前日より下がった。大きく影響したのは、産業用ロボット大手のファナックの株価が急落したことで、ファナック1社だけで日経平均を約96円押し下げた。ファナックは28日、第1四半期の決算発表で、今年度の業績予想を下方修正していた。そこには中国の影響があった。

◆投資家フレンドリーになり、株価の上昇を見せていたファナック
 ファナックは、工場自動化に欠かせない工作機械制御装置や産業用ロボットなどの大手メーカー。同社の株価は、29日の終値で、前日より2470円(10.66%)安の2万700円となったが、それでもまだ時価総額は4兆2630億円に及ぶ。2015年3月期の業績は、売上高7297億円、最終利益2075億円と、過去最高だった。同社は約1兆円もの手元資金を有していた。

 そこに目を付けたのが、米ヘッジファンド、サード・ポイントを率いる「物言う株主」ダニエル・ローブ氏だった。2月、氏はファナックの株式を保有していることを公表し、同社に対して自社株買いを求めた。ファナックはその後、投資家との対話を強化し、4月には、配当性向を2倍にし、自社株買いを行うことを発表した。これらによって同社は海外投資家から注目を集め、株価が急騰した、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は語る。

 ブルームバーグもこのいきさつに注目した。29日、株価のおよそ7年ぶりの下落幅のせいで、ローブ氏が保有を発表した2月以降の、株価上昇分の大部分が帳消しになった、と報じた。

◆スマホメーカーからの受注による好業績が終了?
 ファナックは28日、東証の取引時間終了後に、今年度第1四半期(4~6月期)の決算を発表した。その中で公表された今年度通期の業績予想は、4月27日に発表されたものよりも、下方修正されたものだった(売上高で前期比6.8%減から13.9%減、営業利益で同11.2%減から 26.7%減)。これを受けての29日の株価の大幅下落となった。ブルームバーグによると、クレディ・スイス証券は第1四半期での下方修正は予想外とし、極めてネガティブと指摘したという。

 今回、下方修正を行う前から、今年度の業績は昨年度よりも縮小すると予想されていた。WSJによると、同社はアップルを主要顧客の一社と考えている。同社の「ロボドリル」は、中国国内の工場で、iPhoneシリーズと他のスマートフォンのケースの製造に使用されている、とWSJは伝える。日経新聞(29日)によると、ロボドリルの好調な受注が昨年度の好業績をもたらしたが、今年はこの反動減が出るという。

 ファナックは決算短信で、「これまで活発だった一部IT産業の短期的な需要につきましては、当第1四半期末にかけ受注が急減しており、第2四半期以降はさらに減速していく見込みです。また中国等の設備投資動向において不透明な状況が続いています」と、下方修正の背景を説明している。ファナックは、受注が急減しているIT産業の分野を特定しなかったが、アナリストらはおそらくスマホ産業だろうとしている、とWSJは語る。4月の時点での予想以上に受注は急速に減少しているようだ。

◆スマホ需要の落ち込みと、中国経済の先行きへの不安が増大?
 WSJは、スマホメーカーに製品を供給する日本の電子部品、工作機械メーカーの株価が29日に急落したことに焦点を当て、中でも最大の打撃を受けた一社としてファナックを挙げた。携帯電話メーカーからの需要落ち込みに対する懸念と、中国経済の景気後退への懸念が、株価急落の理由であるという。WSJは、スマホ全体の販売が頭打ちの兆しを見せていることを伝える。

 また、半導体製造装置メーカーの東京エレクトロンも、ファナックと同じコースをたどったことにWSJは注目した。ロイターによれば、同社は28日、今年度通期の営業利益の見通しを112億円から95億円に引き下げた。そして29日、同社の株価は、終値で前日比11%安となった。これにより、日経平均が約33円押し下げられたとのことだ。

 ロイターは、全体において日本企業の業績は回復傾向を示すだろうが、IT産業に製品を供給する一部企業は、今後、半導体需要の低下と中国経済の景気後退のせいで、低い業績に苦しむかもしれない、とトレーダーが語ったと伝える。

 WSJは、日本の電子部品メーカーの見通しの下方修正により、投資家の間で、中国経済と、中国株の急落についての懸念が増大した、と語っている。ブルームバーグでは、いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員が、ファナックについて、「利幅はすでに小さくなっており、中国の景気がさらに悪くなれば、影響もさらに大きくなりかねないと投資家は心配している」と語っている。

Text by 田所秀徳