TPP、日本にさらなる圧力をかける米議員たち…「円安誘導政策を禁止すべき」と政府に要求

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に、為替操作を禁止する条項を盛り込むべきだという声が米議会で強まっている。日本の円安誘導政策がアメリカの貿易赤字拡大の主要因だという見方が広まり、各国に“アンフェアな為替操作”をやめさせるべき、という圧力がオバマ政権にかかっているようだ。ワシントンDCの現地紙『ザ・ヒル』などが、こうした米議会の動きを伝えている。

◆「円安誘導政策をやめさせるべき」
 米経済政策研究所(EPI)が4日に発表した報告書によれば、拡大する貿易赤字の影響で、2013年には全米で89万6000人の雇用が失われたという。特に日本の円安政策が大きな要因だと、報告書の筆者、ロバート・スコット氏は記す。同氏は、こうした事を防ぐために、将来の対日貿易のあり方を定めるTPPに、円安などを誘導する為替操作を抑制する条項を盛込むべきだと主張している(『ザ・ヒル』)。

 同様の主張が今、上下両院の民主・共和両党の議員から強く挙がっているという。共和党上院財務委員会のハッチ委員長は、先月28日、為替操作条項をTPPに盛り込まなければ、議会はTPPの最終合意を支持しないと発言。「政府は、この問題で議会に実のある約束をしなければならない」と、オバマ政権に圧力をかけた(ロイター)。

 EPIの報告書は、特に自動車業界が対日貿易赤字によって打撃を受けているとしている。自動車関連企業が集中するミシガン州選出のステイブノー議員(共和党上院財務員会所属)は、オバマ大統領、バイデン副大統領、ルー財務長官、フロマン通商代表ら要人に、「繰り返し、この問題に対処するよう要請している」と記者団に語った。そして、「日本などが自国の通貨の価値を下げたことにより、アメリカの自動車産業はその代償を払い続けている」と主張した(『ザ・ヒル』)。

◆オバマ大統領は「実現は難しい」と難色
 しかし、こうした要望に対し、米政府はなかなか首を縦には振らないようだ。オバマ大統領は先週、フィラデルフィアで行われた民主党議員の研修会で、「TPPに為替条項を加えるのは複雑な問題を伴う。実現は難しい」などと語ったという(『ザ・ヒル』)。TPP交渉の担当者であるフロマン通商代表も、「為替問題は財務省の担当だ」と、この問題に関わるのを避けているという(ロイター)。

 英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、オバマ政権が消極的な理由を2つ挙げている。1つ目は、「TPP交渉は既に込み入ったやっかいなものになっている。特に日本に為替条項を飲ませるのは難しく、交渉そのものをダメにしてしまいかねない」というものだ。この見解は、先のオバマ大統領の発言にも表れている。

 2つ目は、省庁の管轄の問題だ。「米政府では伝統的に、貿易交渉は通商代表部が行い、為替の問題は財務省の担当になっている」と同紙は記す。これが、フロマン通商代表の“逃げ口上”の根拠になっているようだ。FTは、「後者の理由だけを取っても、貿易協定に為替に関するルールを盛り込むのは、悪しき前例を作るだけだと考える識者は多い」と記している。

 議員側も、当然こうした事情は理解しているはずだ。それでも日本にさらなる圧力をかけるのは、膠着する交渉を米国有利に進める意図があるのかもしれない。

◆米国自身が「対抗的な為替操作」を行うべきとの意見も
 「ホワイトハウスは、どうやってTPP交渉を殺さずに為替問題の“タカ派”の声を抑えるのか。答えはまだ見つかっていない」とFTは記す。その上で、「近く予定されているG20財務大臣会合などの席で、為替操作に対する懸念をもっと大きな声で表明するべきだ」と提案。これにより、議会にある程度は示しがつくと同紙は主張する。

 また、FTは、米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン氏の提案も紹介している。既存の法の範囲内で為替操作をしている国を公式にやり玉に挙げ、その上で該当国に相殺的・懲罰的な関税をかけるというものだ。同氏は、米国自身が「対抗的な為替操作」を行うケースも想定すべきだとしている。

 バーグステン氏はこれを「三つ又のアグレッシブな通貨政策」と呼ぶ。「例えば、中国が自国通貨を弱めるために数10億単位でドル買いをしたら、アメリカは同額の人民元を買い、現状維持をはかるべきだ」と同氏は説明する。そして、「この政策を少しでも実行すれば、あるいはその意志があると示すだけでも、為替操作を防ぐには十分かもしれない」としている。

Text by NewSphere 編集部