安倍首相へ逆風!? ムーディーズの国債格下げの、衆院選への影響に海外注目

 米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは1日、日本の政府債務の格付けをAa3からA1へ1段階引き下げたと発表した。2012年12月の安倍政権発足後、大手3社のうち、日本国債の格下げが発表されたのは初めてのことだ。
 
◆日本政府は目標を達成できないのではないか
 A1という評価は、バミューダ、イスラエル、オマーン、チェコ、などと同じランクだ。

 ムーディーズは格下げの理由について、10%への消費税引き上げの延期で、日本が負債削減の目標を達成できるのか、経済成長を押し上げることができるのかが不確かになった、としている。

 格下げ発表の後には、安倍政権の経済政策などの信を問う衆議院選挙が迫っている。クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの尾形和彦氏は、「このことは、日本の財政状況がひどいものだと、有権者に思い出させる機会となった」と述べた。「安倍首相はまずは経済回復の努力を優先し、それから財政強化に取り組むことになるだろう。首相は、どうしても数年のうちに経済を生き返らせる必要がある」(ブルームバーグ)

◆日本はいつまで負債に耐えられるか
 ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、「ムーディーズの格付け、日本はいつまで、重大な危機を回避し続けることが出来るか」との見出しで報じた。債務の格下げで、ヨーロッパからアジアの新興国、中南米の多額の負債を抱える国々を襲った衝撃を日本も受ける警鐘となるのはいつのことなのか?と格下げの影響を推し量っている。

 政府の負債は、GDPの2倍以上だ。ジンバブエが唯一この数字に近い国だという。ただ、長年、政府が多額の負債者である一方で、日本の企業や各家庭の預金高は高い。多くの負債のほとんどは、国内に起因する。国民が国債を所有する割合が安定していて、他の国に比べ、気まぐれな投資家に左右される危険が少ない。デフレで、金利も低いと日本独特の経済構造を指摘した。

 アナリストらは、発表により、既に日銀の超積極的な金融緩和で金利が抑えられている日本の国債市場に混乱を生じることはないだろうとみている。2011年8月の格下げでも金利に大きな変化はなかった。

 ムーディーズは発表の中で、日本政府の「信頼性は非常に高い。国際的にも日本の経済規模は大きく多岐に渡っているという強みを維持している。制度も非常にしっかりしていて、国内資産の基盤がとても強固だ」と評価している。しかしながら、格付けは、安倍政権に今後、財政赤字を制御する詳細な計画を実行するよう圧力をかけることになるだろう、と英フィナンシャル・タイムズ紙はみている。

◆日銀はどこまで国債を買い進むのか
 国債の利子の上昇で、財政をやり繰りすることがより厳しくなり、危険が高まった、とムーディーズは評価した。しかし、それでも10年国債の金利は、0.5%を下回っている。

 ロイターによると、日本銀行は11月、11.2兆円の国債を買い入れた。財務省の純発行額10.7兆円を上回っている。この対策は、財務省がさらに新しい国債を発行する余裕を与えている、とブルームバーグは報じている。日本銀行政策委員会委員を歴任した須田美矢子氏は、日銀による国債買い入れは、金利が上がり市場に危険信号を送ることを防ぐ意味で、日本政府を安堵させている、と指摘した。

 ただ、日銀の黒田東彦総裁は、増税延期と政府がさらなる景気刺激策を検討していることについて、経済成長とインフレ目標への影響を訊かれ、「国会と政府の仕事で、日銀のものではない」「私の個人的な見解を申し上げる必要はない」(ブルームバーグ)と控えめな発言をしている。

 政府と日銀は2013年1月、共同で声明を発表した。日銀は2%のインフレを目標に、政府は、財政強化と成長戦略の実行を約束した。WSJは、完全にデフレを脱却し、アメリカが昨年行ったように国債の買い入れを縮小することが確認されるまでは、日銀の対策の成否ははっきりしないだろう、としている。しかし、インフレについては、10月に1%を下回り、その日が来るのは、まだまだ先になりそうだ、とも予測した。

 一方、FTは、ムーディーズのトーマス・バーン氏の、日銀の異例の策は、市場の機能不全を引き起こす危険がある、との警告を報じる。10月31日の、年間50兆円から80兆円の国債を買い入れする準備があるとの発表では、日銀の役員も不安を示した、と指摘した。「どんな治療法を講じても構わないと考えているようだ。患者が回復することを期待すると同時に、副作用があることを忘れてはいけない」(FT)

Text by NewSphere 編集部