GPIF改革計画による株高、“短期的”と英紙 リスク型運用には人材不足と米紙指摘

 10月31日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の資産運用の見直し計画が発表されたことで、その行方に再び海外の注目が集まっている。

 特に注目なのは、基本ポートフォリオ内の国内株、外国株それぞれの保有率が現行の12%から倍以上の25%に引き上げられ、一方国債の保有率は60%から35%へと下げられた点だ。よりリスク型の運用へと舵を取り始めたGPIFを、海外メディアはどう見ているのだろうか。

◆資産の半分が株式へ
 新しいポートフォリオでは、国内株式が25%、外国株式が25%を占め、つまり合わせて50%が株式で構成される。ブルームバーグの試算によると、国内株式に約9.8兆円、外国株式に11.5兆円と合わせて約21兆円がさらに株式へとまわることになるという。

 計画通り遂行されれば、GPIFは日本の株式市場の約6%を所有することになるという。その額を考えれば、日銀のETF買いよりも株価へのインパクトは大きい、とみずほ投信投資顧問の青木隆氏は述べる。

 逆に国内国債は約23.4兆円減少させる必要があるが、GPIFが手放す国債は2ヶ月以内にも日銀に買われるかもしれない、との見解を同メディアは示している。すでに新しいポートフォリオに合わせて動いているのかどうかについては、まだ当局は言及していないとのことである。

◆見せかけの演出に終わる危惧
 アベノミクスを信仰するものは、GPIF改革が日本の金融経済および企業活動全体の向上のきっかけになると考えている、とフィナンシャル・タイムズ紙は言う。しかしGPIF改革が景気のテコ入れに作用するかについて、同紙は懐疑的なようだ。

 10月31日には日銀の追加策発表もあり、日経平均は7年ぶりに17,000円を突破した。しかし今のところ結局は、短期視野的な株価の上昇をもたらしているに過ぎず、本腰を入れたビジネスの構造改革というレベルには至っていない、と同紙のヘニー・センダー氏は主張する。

 その根拠として、外国の投資家がここ数ヶ月、一気に日本株の短気保有を増やしたことがある、とセンダー氏は指摘する。香港のある投資銀行バンカーも「価値の本質が上昇したのではなく、市場の期待感が株価を上げているに過ぎない」との見方であるという。

 もちろん、この世は相対価値の世界である。投資家は縮みゆくヨーロッパよりはまだ日本に魅力を感じるのかもしれない。しかしそれでも、独立機構の名の下になおその行方が政府にかかっているというのは何とも皮肉な話であるし、だいたい政府がリスクの主導を取って成功に終わる例は稀だ、とセンダー氏は述べている。

◆残る課題
 さらに大きな問題が残っている。よりリスク型の運用へと舵を切るからには、専門知識を持つ人材を確保しなければならない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、運用のプロが機構に不足していることについて懸念を表している。

「運用計画の見直し」と「ガバナンス強化」はGPIF改革の2本柱だ。しかし今回、新しいポートフォリオ計画は発表できたが、ガバナンス強化についてはまだ議論中のままである。その点をふまえ同紙は「塩崎恭久厚生労働大臣の願いは叶わなかった」と報じている。

「運用方針の変化に伴う専門家の確保にも早急なガバナンス強化が不可欠」と伊藤隆敏教授(政策研究大学院大)は指摘する。昨年、GPIF改革の有識者会議で座長を務めた同氏は「せめて昨年中にもう少し多くを進められればよかったのだが」と述べている。

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Text by NewSphere 編集部