円安効果、頭打ち? 海外紙は悪影響指摘も、アベノミクス継続は必要との姿勢
今月初め、6年ぶりに1ドル110円台に達するなど、円安傾向が続いている。円安の推進はアベノミクスの根幹となる政策だが、ここに来て「安すぎる円」に対する不安も出始めていると、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)などが論じている。
一方、日本食ブームで好調な食品輸出など、円安の恩恵を強く受けている分野もある。ブルームバーグは、「日本のシーフード」をめぐる活況を伝えている。
◆円安効果は既に頭打ち?
FTの論説記事は、安倍政権誕生後の約2年間で、円が対ドルで約26%下がったと指摘する。しかし、「円安による輸入価格の上昇→消費者物価の上昇→脱デフレ・インフレ化」という安倍政権と日銀の狙いは、「少し前進しただけだ」と論じる。そして、「円安はもう、日本にとって良いことではないかもしれない」と記す。
理由のひとつが、原発停止で増加した燃料輸入コストが、円安でさらに上がっていることだ。また、「一般的な見方とは逆に」、日本経済を牽引しているのはもはや輸出ではないとも主張する。実際、GDPに輸出が占める割合が韓国54%、ドイツ51%なのに対し、日本は15%しかない。
同紙は、アベノミクスによって消費価格は1.1%しか上がっておらず、その効果はせいぜいデフレを脱するがインフレとはならない「リフレーション」止まりだと主張する。それも、最近の安倍首相の「円安にはいい面も悪い面もある」という弱気な発言に象徴されるように、「暗礁に乗り上げそうだ」と記す。
◆それでも「円安は良い影響を与える」
それでも、英マクロ経済研究機関「キャピタル・エコノミクス」は、日本経済全体の平均を取れば、円安の方が好ましいと分析している(FT)。同機関の試算では、現在の日本企業の収益増の5分の2は円安の恩恵だという。論説は、円安はアベノミクスの根幹であり、たとえ効果が衰えたとしても途中で計画を投げ出すべきではないと結論づけている。
安倍首相の側近とされる西村康稔・内閣府副大臣(経済財政政策担当)も、進行のペースが緩やかである限り、円安は日本経済に良い影響を与えると見ている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)の取材に答え、見解を述べた。
西村副大臣は「日銀が金融緩和を続ける一方で、アメリカは金融緩和をやめる方向に動いている」とし、この日米の金融政策の違いによって円安はさらに進行しそうだと語った。そして、夏の悪天候の影響を受けている7-9月期ではなく、11月後半に発表される10月のGDPを景気判断の指標にすべきだと主張した。
◆水産物輸出は「ゴールデンチャンス」
海外に生産拠点を移している自動車などの製造業とは対照的に、円安の恩恵を大きく受けているのが海産物の輸出だ。日本食ブームと円安の影響で、食品輸出は昨年、過去最高の4360億円を記録。今年も9月までに3360億円に達し、昨年同時期比で9%伸びた。安倍首相は2020年までに年間1兆円を目指している(ブルームバーグ)。
業界関係者や識者は、「円安の追い風があるのは間違いない」、円安は農業・漁業を主体とする地方経済にとって「ゴールデンチャンスだ」などと語っているという。
また、世界の需要増によって漁獲量の減少が懸念される中、養殖魚の台頭についても触れられている。近畿大学は卵からクロマグロの養殖に成功し、貿易会社とのジョイント・ベンチャーでアメリカに輸出を開始。プロモーションの拠点として、その養殖マグロを使った寿司レストランをニューヨークに出店する計画もあるという。1982年から世界20ヶ国に輸出されている鹿児島の養殖ブリも今、東南アジアを中心に需要が増えているとのことだ。
こうした「日本のシーフード」の活況を受け、築地市場も参加業者の輸出支援に乗り出しているとも、ブルームバーグは伝えている。来年、市場主導で試験的にベトナムへの輸出を行う予定だ。「近畿大学創設者の孫で水産物・農産物輸出の最大の推進派」だと記される世耕弘成内閣官房副長官は、「円安は間違いなくこの分野に成長をもたらしている」と、同メディアに語った。
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