大企業の景況感、「予想外に改善」と海外報道 日本経済への評価は割れる
日銀は1日、9月の全国企業短期経済観測調査(短観)を発表した。このうち、大企業製造業の「業況判断指数(DI)」が、前回6月の調査より1ポイント改善し、プラス13になったことが注目を集めた。いくつかの海外メディアは、これを「予想外の改善」と報じた。
【大企業製造業の業況判断指数、わずかながらも改善。海外メディアが驚いた理由とは?】
日銀短観は、3ヶ月ごとに調査が行われており、今回は、10,369社を対象として、8月27日~9月30日に実施された。回答率は99.3%だった。
「業況判断指数」は、各社に最近の業況について質問し、「良い」と回答したパーセンテージから、「悪い」と回答したパーセンテージを引いたものだ。全体でのほか、業種別、企業規模別でも発表されている。そのうち、「製造業」で「大企業」の判断は、特に注視されている。
その大企業製造業の業況判断指数は、3月にプラス17、6月にプラス12と推移して、今回プラス13となった。毎日新聞によると、四捨五入の結果1ポイントの差がついたが、実質的にはほぼ横ばいであるという。しかし、ブルームバーグとウォール・ストリート・ジャーナル紙は、これを「予想外の改善」とそろって報じた。悪化していてもおかしくはなかった、というエコノミストの予想があったためだ。
日本は、4月の消費税率引き上げの影響から、依然として回復していない、という判断がその前提にある。両メディアはそれぞれ、エコノミストを対象にアンケート調査を行っていたが、そのどちらでも、エコノミストの予想は、プラス10という結果になっていたという。
【急激に進む円安が、各社の業況判断に影響した?】
ブルームバーグとウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この改善の要因として、現在、円安が進んでいることを挙げている。短観によると、大企業製造業は、今年度のドルの為替レートを平均100.73円と想定して事業計画を立てているとのことだ。ところが、今回の調査期間中に、円安が急速に進行した。調査期間外ながら、1日には、一時、2008年8月以来となる1ドル110円まで円安が進行した、とブルームバーグは伝える。
円安は、海外への輸出が大きい企業にとっては有利だ。もし現在のレートが続くのであれば、それらの企業はおそらくより大きな利益を得られるだろう、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は語る。しかし一方で、円安は、卸売業、小売業といった非製造業の景況感に対しては、重くのしかかった、と伝える。円安により、それらの企業の輸入コストが増加してしまったからだ。フィナンシャル・タイムズ紙によると、中堅・中小企業製造業にとっても、(原材料等の)輸入コストの上昇のため、同じことが当てはまる。
【消費税率引き上げの影響が重くのしかかっている、とフィナンシャル・タイムズ紙】
フィナンシャル・タイムズ紙は、ブルームバーグ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とは対照的に、今回の短観の暗い面を強調する。今回、全体の業況判断指数は、6月のプラス7から3ポイント悪化し、プラス4となったことに着目する。消費税増税以来、6ヶ月続けて、日本の全産業で楽観主義が薄れてきている、と同紙は報じる。
4-6月期、日本の実質GDPは、年率換算で前年比7.1%減となった。消費税増税は、リーマンショック以降で最も急激な減少を引き起こしたと伝えている。あるアナリストは、(駆け込み需要の反動で)需要が落ち込んだのみならず、(円安による)円の購買力の低下と、消費税率の引き上げ(による物価上昇)によって、実質購買力が打撃を受けたために、個人消費の活気がなくなっている、と語っている。
【企業の設備投資が盛んになっているのは、景気回復の証?】
ブルームバーグは、短観から、企業の設備投資が盛んになろうとしていることに、特に注目して報じている。短観では、売上高などの年度計画について、実績と予測を質問している。今回、全産業の大企業は、今年度の設備投資額が、前年度比8.6%増になると予測した、と記事は伝える。
前回の調査では、前年度比7.4%増とされていた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、通例、年度計画の投資予想額は、年度内の後期になるにつれて下がるものなので、設備投資額が上がったことは、意外なことだった、と語っている。このことは、日銀の黒田総裁の、企業部門における好循環は続いている、という楽観的な主張も裏打ちしている、と述べ、日本経済が回復基調にあることをほのめかしている。