“アベノミクスは格差社会を助長する” 欧米で話題騒然の『21世紀の資本論』 日本の将来にも警鐘

 フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が昨年著した『21世紀の資本論』が、欧米で大きな話題となっている。資本主義において、持つ者と持たざる者の格差は、拡大し続けるのが一般的傾向であることを、この本は、過去200年にわたる数値データを用いて論証している。

【“格差社会”アメリカで大注目】
 ことにアメリカでの反響は大変なもので、今年3月に英訳が出版されると、700ページ近い大著でありながら、米Amazon.comでは書籍総合ランキング1位を獲得した(5日現在、第3位)。現在、多くのエコノミスト、ジャーナリストが、この本の内容をめぐって論戦を繰り広げているという。

 アメリカでは、所得と富の格差は、大きな問題として社会的に認知されている。2011年には大規模なデモが行われ、ウォール街が数ヶ月にわたって人で埋め尽くされることがあった。そのスローガンは、「わたしたちは99%」というものだった。1%が国の富を独占している、という見解が行き渡っていた。2012年の米国経済白書によると、アメリカ全体の所得のうち、上位1%の占める割合は、1973年には8%だったが、2010年には24%に達していたという。

【“お金は、あるところに集まる”という主張】
 ピケティ氏は、資本主義において、富の集中と格差の拡大が一般的な傾向として見られることを、過去200年以上の納税資料を検討し、統計的に示した。

 著書では、国の経済成長率と、資本収益率とを、歴史的に比較している。資本収益率というのは、株式や土地など、資本を投資に回した際の利益率だ。経済成長率は、国民全員に関係のある数字だが、資本収益率のほうは、資本を持っている人にしか関係がない。前者よりも後者のほうが高いとき、水が低きに流れるように、お金が資本家のもとにどんどん集まっていく。よって、格差が拡大する、というのだ。

 そしてこの資本収益率は、基本的にいつの時代も、経済成長率より高かったという。ただし、第一次、第二次世界大戦のときだけは例外だった。戦争中は高い税金が課され、資本家の持つ富が戦闘で破壊されるなどしたため、格差は著しく減少した。また戦後しばらくは、経済成長率が高かったため、格差の拡大が抑えられていた。しかし、1980年代から再び拡大し始め、いま、100年前の水準に戻りつつあるという。

 氏は、この傾向を抑え、富の再分配を促すために、累進課税を世界全体で一律に適用することを提唱している。富裕層が、タックスヘイブンで税金逃れするのを防ぐためだ。

【日本にもあてはまる? 今後、格差は拡大するとの予想】
 これらの傾向は、日本にも当てはまるものだと、同著で語られているという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ「日本リアルタイム」が伝えている。

 20世紀初頭には、日本にも、ヨーロッパと同様に大きな格差があったという。その後、戦争によって格差は縮小した。1980年代から現在までを見ると、国全体の所得のうち、上位1%のシェアは、7%から約9%へと微増している。所得の格差は、まだアメリカにおけるほど拡大していないが、今後数十年間で、拡大する態勢にはある、と氏は考えているという。「日本とヨーロッパの辿っている道筋は、いくつかの面でアメリカのものに類似しているが、そこには10年ないし20年の遅れがある」と氏は述べている。

 記事では、安倍首相が進めている消費税引き上げ、法人税引き下げなどの経済政策“アベノミクス”は、格差を拡大しうる、という批判の声が、日本ではあることについて触れる。そしてピケティ氏の結論は、アベノミクスについての論争を促進する可能性がある、としている。ブルームバーグの論説サイト「ブルームバーグ・ビュー」では、この記事を踏まえ、ピケティ氏がアベノミクスに打撃を与える、と報じた。

【日本の格差の原因の一つは“終身雇用”】
 フォーブス誌もまた、ピケティ氏の著作をきっかけにして日本の格差について論じたコラムを掲載した。記事によると、日本社会の格差は、ドイツ、フランス、イタリア、カナダのそれをはるかに上回っているという。その一因となっているのが、終身雇用制であり、これは戦後の急発展と急速な産業復興の時期の遺物であるとしている。これがあるために、正規雇用と非正規雇用の労働者の間で、賃金、雇用の安定などで、格差が生じている。

 国際通貨基金のレポートによると、非正規雇用の割合は、目を見張るほど増えつつあるという。記事では、若手の労働者と、女性が、非正規雇用になりやすいことを挙げている。

【日本語版の発売時期は?】
 なお、この本は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、日本語版の制作準備は始まったばかりで、発行時期は未定であるとのことだ。原著の版元は、2017年3月までには出版されるはずだと語っている。

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Text by NewSphere 編集部