“日銀の魔法”が切れる前に構造改革を 追加緩和観測に海外識者が懸念

 日銀は17日、各地域経済についての報告「さくらレポート」を発表した。今回は北陸の景気情勢を上方修正し、各地域とも「緩やかに回復している」「回復を続けている」とした。消費税増税後の消費冷え込みが懸念される中、日銀の各支店長らは、「いくらかの弱い動き」はあるが想定の範囲内だと考えているという。

 だが同日、内閣府は3月の消費者信頼感指数が37.5と、2年半ぶりの低水準に落ちたことを発表。消費者心理についての評価を下方修正した。この「著しく異なる見解」のため、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、展開によっては日銀が追加緩和への政治的圧力に直面する可能性があると示唆している。

【楽観的なさくらレポートと不吉な政府統計】
 さくらレポートには「国内需要が堅調に推移し、生産が緩やかな増加基調をたどる中で、雇用・所得環境も改善している」とある。ロイターによると、パナソニック本社などが立地する櫛田誠希・大阪支店長は「増税後も企業感情は悪化しておらず、比較的堅調なままであります」などと述べ、大阪地域の企業は雇用を増やし賃金を上げつつあると指摘した。黒田総裁も支店長会議での挨拶で、回復傾向への自信と、もし2%インフレ目標の達成が脅かされるなら更なる政策緩和を辞さないという、従来の見解を繰り返していた。

 ロイターは、レポートが「住宅着工件数やデパートでの高級品の売上減を見ている地域があることには言及しなかった」と指摘し、また、輸出の弱さがいまだ経済の弱点であると懸念する。輸出について櫛田大阪支店長は、「我々の見解は、輸出が最終的には経済の改善に沿って持ち直すというものです。ですが今のところ、いつどのくらい輸出が上昇するかを教えてくれる十分なデータは見ていません」と述べたという。

 またウォール紙は、政府データによれば家電の売上高は3月に前年同期比90%増となったあと、4月初週には20%減であったと報じている。これに対しトヨタなどが立地する宮野谷篤・名古屋支店長は、「デパートの売上高や自動車受注の減少のペースは、日々緩和されています」と述べた。

【インフレに国民はキレないか】
 ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏は、消費税増税分を上回る各社の値上げラッシュもあって、いずれにしても急激すぎるインフレに国民が付いて行けなくなる事態を懸念する。

 記事は、日銀が追加緩和をしたらしたで、円安によりエネルギー輸入コストの高騰を招く恐れもあると警告する。政府も日銀の魔法が切れる前に構造改革を実現させて、「起業家精神を奨励し、時代遅れの法人税制を変更し、貿易障壁を下げ、労働市場を緩め、活用不足な女性の労働力に力を与えるという約束を果たすしかない」という。さもないと1999年ユーロ導入時のインフレで発生したような大騒動が懸念されるからだ。「イタリア人とスペイン人は、全国規模の不買ストに参加した。ドイツ人は政府が設置した値上げホットラインをパンクさせ、フランスの新聞は、統計学者らが公式インフレデータをいかにいじり回したかについての長口舌で一杯になった」という。

 記事は、「安倍と黒田は、消費者を馬鹿と思えという衝動に抵抗しなければならない」と表現している。

日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) [amazon]

Text by NewSphere 編集部