豪、日本から“予想以上”の譲歩引き出す TPP交渉を優位に進めたい両国の思惑が一致

 日本とオーストラリアは、7年の歳月をかけて行ってきたEPA交渉において、大筋で合意した。焦点であった、オーストラリア産牛肉に対する関税の引き下げ、コメへの関税維持は、両国の思惑が一致し、双方にとって納得のゆく結果となったようだ。

 安倍首相が今夏にも予定しているオーストラリア訪問に合わせて、正式署名をおこない、早ければ来年初めに発効することになる。

【焦点だった牛肉に対する関税は?】
 今回の合意で、オーストラリア産牛肉に対する関税は大幅に引き下げられることとなった。冷凍牛肉に関しては、現在の38.5%の関税を18年かけて19.5%まで引き下げ、冷蔵牛肉に関しては、15年かけて23.5%まで引き下げることになった。

 今回の条件は、オーストラリア政府の予想を上回る良い条件だった、とシドニー・モーニング・ヘラルド紙は伝えている。オーストラリアの牛肉産業もこの結果を歓迎しており、合意をうけて、オーストラリア東部の若牛の取引値が0.8%上昇し、2012年10月以降最高額を記録したという。

【オーストラリアが歓迎したチーズ】
 牛肉の他にも、オーストラリアはチーズの関税引き下げを歓迎。日本国内でのチーズの消費が急激に増えており、国内産だけでは賄いきれない事情があったと報じられている。その結果、プロセスチーズの材料となるナチュラルチーズの関税が撤廃されることになった。ただし、日本産のチーズと混ぜて使うことを条件にしている。

 また、40%の関税がかけられているプロセスチーズにおいても、10年をかけて半分に引き下げられるという。ただ、オーストラリアの酪農産業協議会は、フレッシュチーズの関税が引き下げられなかったことに関しては不満を表明している、とシドニー・モーニング・ヘラルド紙は報じている。

 その他にも、ヨーグルトやアイスに対する関税の大幅引き下げ、トマトや桃などの缶詰、野菜や果物ジュースに対する関税撤廃など、今回の合意に向けて日本はかなり譲歩している。

【譲歩合戦?】
 一方で、「オーストラリアは、日本に対して寛大な条件で合意した」とアナリストはみている(ブルームバーグ)。オーストラリアは、コメ、製粉小麦、砂糖、バター、粉ミルクに対する関税を日本が維持することを認めた。

 さらに、日本車や、日本製の家庭用器具、電化製品への関税を撤廃することにしている。林農林水産大臣も、「オーストラリアは交渉中に柔軟性を示してくれた」と譲歩を示唆したという。

【両国の思惑】
 両国が譲歩し合った背景には、それぞれの思惑があったようだ。アナリストは、“オーストラリアは、アメリカに奪われた日本の牛肉市場のシェア回復に力を注いできた”とみており、アメリカより優位に立つ狙いがあったとみられる(ブルームバーグ)。

 一方日本は、今回の交渉をまとめて、アメリカとのTPP交渉の起爆剤にしたいと考えていたようだ。甘利経済大臣は、「両国は、互いに満足ゆく形で合意に至った。この結果により、アメリカとのTPP交渉が進展することを願う」とコメントしたと報じられた。

 さらに、TPP担当者も「この状態は、アメリカの牛肉産業にとっては痛手だ。これによりTPP交渉が前進して早期合意に至ることを望む」とコメントしているという。

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Text by NewSphere 編集部