日本、TPP交渉参加へ 海外紙が指摘する課題とは?

 安倍首相は15日の記者会見で、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。安倍氏は、「今がラストチャンス」と強調し、世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏の誕生を後目に、内向きになっていれば、日本は取り残されてしまうだろうとの危機感を示した。

【日本の状況】
 日本のTPP参加の是非は、関税の引き下げもしくは撤廃により輸出業が活気づくのを期待する経団連や日本自動車工業会などからの応援を受けつつ、高い関税に保護されている農業や乳業団体、国民皆保険制度の転覆を危ぶむ医療業界からの強い反対があって、今日まで膠着状態が続いてきた。企業寄りの保守政党である一方、農家を支持基盤とする自民党の歴史的背景から、自民党内も賛否に二分されているのは周知の事実だ。

 安倍首相が強い表現を選ぶのも、これらの反対を意識しているからに他ならない模様だ。首相はさらに、自民党党大会で「日本の国益は必ず守る」と断言し、「わたしを信じてほしい」と呼びかけたという。

【他国の反応】
 こうした背景を持つ日本の交渉参加表明は、アメリカに、歓迎と警戒の両面の反応を起こさせているようだ。フィナンシャル・タイムズ紙は、米通商代表部代表代行のマランティス氏の、アメリカは日本の交渉参加への関心を「歓迎する」が、「懸案事項も多く、今後、重要なすりあわせが必要」との談を報じた。同紙は、世界第3位の経済規模を持つ日本の参加が、アメリカにとって吉と出るのか凶と出るのかを慎重に秤にかける典型的な姿勢を浮き彫りにしているといえる。

 日本の交渉参加表明に警戒心を露わにするのは、アメリカばかりではないという。先の日米首脳会談で安倍首相が参加の前提として、「国民と約束した聖域」に言及したことは、今回、安倍氏が国内に向けて参加の「決断表明」に打って出た原動力ともなったが、同時に、他の参加国にとっては、合意形成を遅らせる可能性を示唆するもので、必ずしも歓迎ムードばかりではないとされる。
 実際、一部の参加国は、安倍氏の「聖域保護」の意気込みとは裏腹に、日本には、農業部門も含めて、「相当の」譲歩が求められるだろうとの見解を示していると、フィナンシャル・タイムズ紙は報じた。

【日本国内の賛否】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、自民党の石破幹事長が16日のテレビ出演時に、交渉によっては農産物の関税の引き下げもありうるとの見解を示したことを報じ、与党の政治家すらも、「聖域」保護の困難さを自覚していることを示唆した。さらに、甘利大臣の、「政府試算によれば、関税が完全撤廃された場合ですら、農業生産の3兆円減よりも、3.2兆円の経済効果のほうが高い」という、引下げ必至を示唆するともとれる発言も紹介している。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙などは、「安倍首相が交渉参加にこぎつけることができれば」、輸出量が増加し、長らく低迷してきた日本経済にとって「金融緩和以上の恒久的な」効果をもたらすという識者の肯定的な談も報じた。
 
 就任以来、経済問題、領土問題などで強い姿勢を見せてきた安倍首相が、現在の高い支持率を武器に、TPP交渉参加という薄氷を踏んだという見解が濃厚だが、当面、ハードルは二つあるという。
 第一に、すでに参加している11ヵ国すべての賛成が得られない限り、日本はスタートラインにも立てないということ。第二には、今年の7月の参院選で敗北すれば、ねじれ国会状態が継続し、指導力が発揮できないということだ。
 安倍首相は果たして、前虎後狼の現状を打開できるのか。その手腕が注目される。

Text by NewSphere 編集部