批判されるW杯の給水タイム、効果はあるのか 専門家「3分では不十分」

給水タイム中に涼を取るイングランド代表のハリー・ケイン(6月17日)|Julio Cortez / AP Photo

 ワールドカップ史上初めて、国際サッカー連盟(FIFA)は猛暑の脅威から選手を守るため、全選手を対象に給水タイムを導入した。しかし、この新ルールにはさまざまな立場から批判の声も上がっている。

 アメリカ、メキシコ、カナダが共同開催する今夏のワールドカップについて、一部の専門家は大会史上最も暑い大会になる可能性があると警告している。FIFAは極端な暑さへの懸念を受け、気温やスタジアムが密閉型かどうか、空調設備の有無にかかわらず、各ハーフの中盤に3分間の給水タイムを設けた。

 しかし批評家の中には、試合の流れを中断させ、監督にチームへ有利な流れを引き寄せる機会を与えていると指摘する人もいる。一方で科学者からは、酷暑の環境下で体を冷やし水分補給を行うには休憩時間が短すぎ、十分な効果が期待できないとの声も出ている。

 コロンビア大学国立災害準備センターのジョシュア・L・デヴィンチェンツォ氏は「3分間の給水タイムは、事故や救急搬送につながり得る事態を未然に防ぐための手段として捉えている」と語った。

◆気温に関係なく実施されるFIFAの給水タイム
 FIFAは、この給水タイムについて「すべての試合で全チームに平等な条件を確保するため」の措置だと説明している。また、気温が急上昇した昨夏のアメリカでのFIFAクラブワールドカップを含む過去の大会での経験を踏まえたルールだとしている。

 一部の監督は、極端な高温時には休憩は合理的だとしながらも、全試合で必要なのか疑問を呈している。また、放送局がCMに切り替えることで、観客にとっての観戦体験を損なっているとの批判もある。

 給水タイムを最大限に活用しているとするメキシコ代表のハビエル・アギーレ監督は、「ピッチには入れないが、選手たちは水を飲みながらこちらへ来るので指示を出せる」と話した。「試合中に修正すべき点を伝える機会として活用している。監督にとってはありがたいことだ」

◆高度な訓練を受けたエリート選手でも熱ストレスに陥る
 高温多湿の環境で激しい運動を行う選手は、「労作性熱障害(Exertional heat illness)」と呼ばれる症状に陥る危険がある。体温が過度に上昇することで発生し、心臓や神経、筋肉、中枢神経系に大きな負担がかかる。

 症状には筋肉のけいれん、極度の疲労、パフォーマンス低下、頭痛、いら立ち、吐き気、めまい、脱水などが含まれる。

 早稲田大学スポーツ科学学術院の細川由梨教授は電子メールで、深部体温が40.5度を超えると、選手は混乱状態に陥ったり、攻撃的になったり、意識を失ったりする可能性があると説明した。

 細川教授は「これらはいずれも労作性熱射病の典型的な兆候であり、直ちに医療措置が必要だ」と指摘する。同教授は5月、選手の安全確保のためクーリングブレイクを少なくとも6分間に延長することなど、より厳格な暑熱対策ガイドラインを求める書簡に共同署名した。

 労作性熱射病は、アスリートの主要な死亡原因の一つとされる。

 脱水も危険性を高める。暑熱環境下では選手は1時間に1〜2リットルの汗をかくことがあり、多くの選手は失った量より少ない水分しか摂取していない。脱水によって体重のわずか2%を失うだけでも身体能力が低下する可能性がある。

 ダートマス大学の生物科学教授ライアン・カルスビーク氏は、人間の体はある程度温まった方が高いパフォーマンスを発揮できるものの、ある臨界点を超えると、その向上は止まるだけでなく急激に低下すると説明した。

 「体は本当に機能不全を起こし始め、十分な速さで体を冷やす能力を失う」とカルスビーク氏は述べた。「そして生理学的な仕組みそのものが破綻してしまう」

 こうした状態は、気温や湿度、雲量、風速を反映する湿球黒球温度(WBGT)が約35度を超えた場合に起こるという。ただし耐暑性には個人差がある。

 また同氏は、極端な暑さによる認知機能の低下が選手の戦術的判断能力に影響を与える可能性があると指摘する。「こうしたわずかなパフォーマンスの差が試合結果を左右すると考えている」と語った。「猛暑であれ高地であれ、過酷な環境でより良いパフォーマンスを発揮できる選手がいれば、その小さな差が勝敗を決定づける重要な要素になり得る」

◆給水タイムはもっと長くすべきだと専門家は指摘
 3分間の給水タイムは、選手や審判を重度の熱障害から守り、身体能力を維持することを目的としている。

 選手は体を冷やし、発汗で失われた水分や塩分を補給できる。

 その方法の一つが、体の一部に冷たく濡れたタオルを当てることだ。コネチカット大学コーリー・ストリンガー研究所の最高経営責任者(CEO)で、書簡にも共同署名したダグラス・カサ氏によると、適切に行えば体温を1分当たり約0.12度下げることができる。

 カサ氏は「比較的多くの水分を摂取しても快適な状態で激しい運動ができる人もいる。一方で胃の中で水分が揺れて不快感を覚える人もおり、そうした人は短時間ではあまり多くの水分を摂取できない」と説明した。

 2024年の研究では、高温環境を再現した実験室でサッカーの試合中の運動を模擬した結果、3分間で選手の深部体温が約0.4度低下したことが確認された。ただしこれは350〜400ミリリットルの冷水を飲み、肩に冷たいタオルを掛けるという理想的な条件下での結果だった。

 研究の共同著者であり、キャンベラ大学スポーツ・運動研究所ディレクターのジュリアン・ペリアード氏は電子メールで、肩に氷で冷やしたタオルを掛けることは有効だが、水分補給も同時に行うことが条件だと説明した。同氏も書簡に署名している。

 そのため、この3分間を計画的に活用することが重要だという。ただし同氏は「理想的な条件下であっても、給水タイムは多少の効果はあるが、深部体温の上昇による熱障害のリスクを完全になくすことはできない」と指摘した。

 カサ氏は、水分補給であれ冷却であれ、効果の大きさは確保できる時間によって決まると述べた。

 また、回復に必要な時間にも個人差がある。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校ヒート・ラボのディレクター、バラト・ヴェンカット氏は「体質によって必要な時間は異なる。しかし、休憩がなければ体は休みなく体温を下げ続けようとしなければならない。そうした意味でも、このような休憩は極めて重要だ」と語った。

 地球温暖化が進む中、給水タイムの義務化や、スポーツをどこで、いつ、どのように行うかの見直しは必要になっていくとみられる。

 ヴェンカット氏は「どのスポーツであっても、気候変動に対応するため何らかの調整を迫られることになるだろう」と述べた。

By DORANY PINEDA and JENNIFER MCDERMOTT Associated Press

Text by AP