トイレ壊れた豪華客船で1週間…漂流4000人が体験した“地獄”とは? Netflixで再脚光
カーニバル・トライアンフ号|CathyRL / Shutterstock.com
2013年2月、メキシコ湾で漂流した豪華客船カーニバル・トライアンフ号。約4000人の乗客・乗員が、汚物まみれの船内で1週間近く過ごすという、クルーズ史上最悪とも言われる事故が起きた。通称「プープクルーズ」として知られるこの事件が、Netflixの新作ドキュメンタリーによって再び注目を集めている。
◆エンジンルーム火災で全電力を喪失
テキサス州ガルベストンからメキシコ・コスメルへ向かう、4日間のクルーズ旅行。その最終日、思いがけない惨劇が乗客たちを襲った。
2013年2月10日、カーニバル・トライアンフ号のエンジンルームで火災が発生。電力ケーブルが損傷し、約4000人の乗客と乗員を乗せたまま、船はメキシコ湾を1週間近く漂流することになった。
ピープル誌によれば、乗客たちは夜明け前の緊急放送で目を覚まされ、甲板へと避難。船の特徴でもある赤いファンからは炎が噴き出していたという。乗客の一人、ジェイム氏はそのときの恐怖を「まるでタイタニックのようだった」と振り返り、「人々が走り回り、ドアを叩く音が聞こえた。パニックが広がっていた」と語っている。
◆「シャワーで小便、赤い袋で大便」の指示
電力が失われたことで、最も深刻だったのがトイレの問題だった。ピープル誌によると、クルーズディレクターのジェン氏は、数千人の乗客に前代未聞の指示を出すことを余儀なくされた。
「小便はシャワーで済ませてください」「大便の場合は、赤い袋を各トイレに配布しますので、それに用を足して廊下のゴミ箱に捨ててください」
しかし、多くの乗客はその指示に従わなかったという。乗客の一人、デビン氏は「廊下を歩いていたら、足元からぐちゃぐちゃという音がした。私たちは排泄物の中を歩いていたんです」と証言する。
タイム誌によれば、カフェテリアの床も尿や便で覆われていたという。船内のシェフ、アビ氏はトイレで見た光景を「まるでラザニアのようだった」と語る。便とトイレットペーパーが何層にも重なり、完全に詰まっていたという。赤い汚物袋は廊下に積み上がり、船全体に強烈な悪臭が立ちこめていた。
◆甲板に「テント村」、食料の奪い合い
乗客たちの生活環境は一変した。ピープル誌によれば、エアコンが停止し、客室内の気温は急上昇。乗客たちはマットレスを甲板に運び出し、屋外で寝るようになった。甲板は「テント村」のような状態だったという。
ヤフー・カナダによると、食料不足も深刻化した。冷蔵庫が使えなくなったため、生鮮食品はすぐにダメになり、乗客たちは配られる非常食をできる限り確保しようと必死になった。
さらに混乱を招いたのが、クルーによる「無料のオープンバー」だった。乗客の気持ちを和らげようと始められたサービスだったが、結果的には酒に酔った人々が騒ぎを起こし、状況をさらに悪化させた。
ピープル誌によると、アルコールの影響で酔った乗客が船外に排尿したり、使用済みの赤い汚物袋をライフボートに投げ捨てたりするなど、混乱がさらに拡大したという。
火災発生から4日後の2013年2月14日、タグボートによって船はアラバマ州モービルにえい航され、乗客たちはようやく悪夢から解放された。事件を受けて、カーニバル・クルーズラインは最終的に1億1500万ドルを投じ、船舶の改修を実施。全船のエンジンルームの安全対策を見直す大規模な改善に踏み切った。
楽しいはずのクルーズの旅が一転して悪夢となった――この出来事は、クルーズ史に残る悲劇のひとつとして記憶されている。