「ヘルペス感染者にとって世界一の国」ニュージーランドの斬新広告がカンヌで2冠受賞
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「性病=恥ずかしい」という常識を笑い飛ばす、型破りな広告が世界の注目を集めている。ニュージーランドのキャンペーンが、性器ヘルペスへの偏見をなくすことを目的に制作され、カンヌ・ライオンズ国際広告賞で2冠を達成した。風刺と教育を融合させた観光CM風の映像には、国民的レジェンドたちが続々登場。そのユーモアとメッセージ性が高く評価された。
◆偏見を逆手に取った“観光誘致風”キャンペーン
ニュージーランド・ヘルペス財団によると、性器ヘルペスの原因ウイルスを持つニュージーランドの成人は約3人に1人に上る。しかしほとんどは軽度か無症状で、普通の生活が可能だ。ところが、メディアの誤った情報や、性に関する話を避ける国民性もあり、感染者は根強いスティグマ(偏見や恥の意識)に苦しんでいる。こうした現状を変えようと、同財団は大胆なキャンペーンに乗り出した。
ニュージーランド・ヘルペス財団が2024年10月公開したこの広告は、性器ヘルペスへの偏見を打ち破ることを目的にしている。感染者は世界で数十億人とされるにもかかわらず、病気に対する偏見は根強く、患者の多くは口をつぐんでしまう。
そこで同財団は、あえて「性器ヘルペスにかかるなら、ニュージーランドが世界一」とうたったユーモラスな広告動画を制作。観光PR風のビジュアルと、豪華な出演陣で注目を集めた。
動画では、元ラグビーニュージーランド代表監督のサー・グラハム・ヘンリーが「我が国を再び話題の中心に」と語り出す。ほかにも、元保健総局長のサー・アシュリー・ブルームフィールドやスポーツ界の著名人たちが次々に登場。「偏見をなくすための講座」を展開し、性器ヘルペスについての正しい知識と「恥ずかしくない」というメッセージを発信した。
◆世界的評価と広がる反響
このキャンペーンは、2025年のカンヌ・ライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルで、ヘルス部門のグランプリと「公益目的部門」のグランプリをダブル受賞。世界2万6000以上の応募作の中で際立つ存在となった。
ニュージーランド国営のラジオ・ニュージーランド(RNZ)によると、公開から8週間で2200万件のPRインプレッションを記録し、教育動画の視聴時間は累計1万時間を超えた。世界各地のヘルペス支援団体からも問い合わせが寄せられた。
ヘルペス財団の創設メンバーで理事を務めるクレア・ハースト氏は、ガーディアン紙に対し、「ヘルペスは医学的にはほとんど重要な問題ではない」としたうえで、「“ヘルペス”という言葉にまつわる長年の社会的刷り込みが、多くの人にとって診断を受け入れることを困難にしている」と語った。
「笑いながら学ぶ」広告は数あれど、性の健康、しかもタブー視されがちな感染症を真正面から扱った本作は異例だ。ニュージーランド発の挑戦が、世界の偏見を少しずつ変えていくかもしれない。