再評価されるオノ・ヨーコ 新伝記が描く知られざる素顔

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 長年「ビートルズを解散させた女性」という烙印(らくいん)を押されてきたオノ・ヨーコ氏だが、新たな伝記本の出版をきっかけに、世間の見方が変わりつつある。彼女のアーティストとしての実績や人間的魅力に、世界の注目が集まり始めた。

◆レノン以前から前衛芸術家として活動 
 オノ・ヨーコ氏と親交がありジャーナリストでもあるデビッド・シェフ氏が著した伝記『Yoko: A Biography』が、3月25日にアメリカで刊行された。オノ氏の波乱の人生と、アート界への貢献が鮮やかに描き出されている。 

 英サンデー・タイムズ紙が書評で取り上げる内容の一部によると、オノ・ヨーコ氏はジョン・レノン氏と出会う前から、すでに前衛芸術界で確固たる地位を築いていた。1960年代、彼女はニューヨークの実験的な芸術活動に没頭。この時期、ジョン・ケージ氏やマース・カニンガム氏といった著名な芸術家たちと親しく交流を重ねていった。 

 1965年のカーネギーホールでは、彼女は後世に残る『カット・ピース』と呼ばれるパフォーマンスを行っている。米ワシントン・ポスト紙はこのパフォーマンスを取り上げ、オノ氏が無言で座り込み、観客が彼女の衣服をはさみで切るという内容だったと振り返っている。ジョン・レノン氏と出会う前から、芸術家として存在感を放っていた。 

◆オノ氏の誤解と中傷の歴史
 レノン氏との出会いは、1966年11月を待つことになる。ロンドンのインディカ・ギャラリーで開かれた展覧会で、2人は初めて顔を合わせた。サンデー・タイムズ紙によると、レノン氏はオノ氏の作品『アップル』に目を奪われたという。 

 台の上にただリンゴを置いただけのシンプルな作品だったが、レノン氏は勝手にそのリンゴに噛みついてしまった。この思いがけない出来事が出会いのきっかけとなり、2人は芸術家として強くひかれ合っていく。 

 だが、オノ氏はビートルズファンやマスコミから容赦ない批判を受けていた。ファンたちは彼女の髪を引っ張ったり、危害を加えると脅したりした。人種的偏見に満ちた言葉も浴びせられたという。

◆芸術的貢献への再評価
 これらがビートルズの絆に亀裂を入れたとの指摘もあるが、シェフ氏は著書の中で、こうした考えに疑問を投げかけている。彼の見解では、レノン氏はすでに音楽への意欲を失っていたが、「人生の喜び」であるオノ氏と出会わなければ、ビートルズはもっと早く解散していたかもしれないという。

 米ニューヨーク・タイムズ紙は、オノ氏への評価は近年大きく変わってきたとみる。芸術作品や音楽活動に対する見直しが進み、ソニック・ユース氏やカート・コバーン氏から、オノ氏のタトゥーを入れたマイリー・サイラス氏まで、多くの音楽家たちが彼女から創作のヒントを得ているという。

 クレジットにも変化があった。ワシントン・ポスト紙によれば、オノ氏は2017年になってようやくレノン氏の名曲『イマジン』の共作者として正式に認められた。 

 現在92歳のオノ氏は、表舞台からほぼ身を引いている。前衛芸術家や社会活動家としてなど、さまざまな表情を持った彼女の人生が再評価されている。

Text by 青葉やまと