ナイジェリアのAIアーティストの「シニア・ファッションショー」が注目される理由
◆ファッション界のエイジズム
アフェブアのバーチャル世界のファッションショーは注目を集め、インスタグラムのある投稿には4万7000以上の「いいね!」がついている。架空のアフリカの国が舞台で、アフロフューチャリズムのテーマを世界に拡散させた映画『ブラックパンサー』の、コスチュームデザイナーを務めたルース・カーターも賞賛の声を上げるなど、彼の作品はアート界、映画界、メディアから大きな注目を集めている。
彼の作品が大きな注目を集める背景には、シニア、特に黒人モデルがランウェイを歩くということが現実世界において非常に限られていることや、アフェブア自身が語るようなシニア世代に対するネガティブな見方が存在する。また、ファッション世界においては、モデルといえば若者がもてはやされるという時代が続いてきた。
しかしながら、その状況は近年少しずつ変わりつつあるようだ。たとえば、最近開催されたパリのショーでは、高齢者ではないものの、より年齢層の高いモデルたちが活躍した。これまでも、トークン的に年齢層が高いモデルやセレブリティがランウェイに登場することはあったものの、2019年時点でモデルの年齢の中央値は23歳だった。パリやロンドンといったメインのファッションショーではいまだ若いモデルが中心だが、コペンハーゲンやオーストラリアのファッションショーでは若いモデルだけのショーからシフトしつつあるようだ。周縁部から少しずつ変化が起こり始めているのかもしれない。
アフェブアのアート作品は、AIで生成されたこと、シニアの黒人モデルを扱っていることの「意外な驚き」で注目された。この意外性の背後には、皮肉にもダイバーシティの欠如、アフリカや黒人に対する差別や偏見、ファッション業界におけるエイジズムといったネガティブな現実が存在する。しかしながら、AIを使ったアフェブアのようなアート作品が今後、現実世界の差別・偏見・エイジズムなどに抗い、いま見過ごされている存在を「ノーマライズ」する原動力になる可能性にも期待したい。
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