蘭大学で「葉巻を吸う男性理事たち」の絵撤去、キャンセルカルチャー議論に

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◆過去をどう捉える? 反対意見続々
 世界的に、不快に感じられる過去の芸術や文化の撤去を望む人と、それが歴史を消そうとすることになると考える人との間で対立が起こっている。ガーディアン紙によれば、植民地時代の過去が分断の問題として大きく立ちはだかっているオランダではその傾向が強く、今回の措置も激しい議論を呼んだ。

 オランダの元外相でライデン大学元講師のウリ・ローゼンタール氏は、絵を撤去したことは「恥」であり、「いわゆる知的な教授陣」による「愚かさ」の一例だと評した。国際関係論の教授ロブ・デ・ウェイク氏は、撤去は「歴史を書き換える」試みだとし、この絵の作者であるライン・ドール氏は「愚かで悲しい」と述べた。(ガーディアン紙)

 ライデン大学図書館長ヨス・ダーメン氏も、撤去は過去に対する理解の欠如だと断じた。物理学教授のセンス・ヤン・ファン・デル・モレン氏は、スーツ姿で葉巻を吸う男性たちに対する目立たぬ抗議としていつもこの絵を見ていたとしている。(ダッチ・ニュース)

 政治家でコラムニストのロナルド・ファン・ラーク氏も、この絵はただの肖像画ではなく、へそ曲がりな大学理事たちを皮肉り、大学の閉鎖性を映し出した鏡であった指摘。アートとは考えさせ、別の視点を可能にするためにあるとし、この絵の意図もそうだとしている(エラスムス大学のニュース・プラットフォーム、エラスムス・マガジン

◆議論が不足していた 絵の撤去を大学側も反省
 大学側は、議論を経ずに突然絵を撤去したことが今回の騒動につながったとし、作品を壁に戻したという。昨年12月初めには、この事件を調査し絵画の展示方法を検討するための特別委員会が設置された。

 ガーディアン紙によれば、学長のアンティエ・オットフ氏は、あらゆる方面の意見に耳を傾けると表明。多様性は最も重要な課題の一つとしつつも、この絵の歴史的価値も考慮するべきとした。解決策として、絵に歴史や背景などの文脈を追加することを挙げている。これは削除に代わり、論争の的になる彫像の存在を説明するために世界各地で使用されているアプローチだ。2023年の第1四半期に最初のアドバイスを行う方針ということで、大学側の対応が注目される。

Text by 山川 真智子