選手もピッチでパレスチナの旗…カタールW杯で注目されたアクティビズム

スタジアムの前でパレスチナの旗を持つモロッコサポーター(12月10日)|Jorge Saenz

◆中東アラブ圏での初開催
 今回のW杯は、中東のアラブ圏での初開催。カタールの猛暑の時期を回避するため、通常の6月から11月へと開幕時期が変更されたことは、これも批判された点での一つではあるが、アラブ地域ならではともいえる結束も見られた。

 その一つがパレスチナに対する支持だ。試合会場では、数多くのパレスチナ国旗が翻り、サポーターたちはアームバンドやブレスレットを着用してパレスチナを支持。会場内、そしてSNSでは「パレスチナ解放(free Palestine)」のメッセージが叫ばれた。32ヶ国の出場チームに加えて、パレスチナは33ヶ国目の参加国だとして、その存在感を認識するような声も上げられた。さらに、モロッコのチームは、アラブ勢初の快挙として準々決勝進出を決めた際、モロッコの旗ではなく、パレスチナの旗を掲げて記念写真の撮影を行った。ある活動家は、チュニジア対フランスの試合中、パレスチナ国旗を持ってフィールドに立ち入り、試合が一時中断するという場面もあった。一方、イスラエルのメディアやジャーナリストは取材を拒否され、歓迎されなかった。

 しかし、中東研究の専門家スティーブン・クック(Steven A. Cook)はこうしたW杯におけるプロテスト活動は、基本的に意味がないことだと論ずる。W杯のプロテストで見られたような「認知活動」は、十分に認知されているパレスチナ問題には必要ない。一方、W杯が終わった後、何かパレスチナ・イスラエル問題に進展があるかというと、その見込みはない。イスラエルはユダヤ教の国として地域のアウトサイダーであり続け、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアからはビジネスなどにおける「特権」が与えられる。

 4年に1度の開催だからこそ盛り上がるW杯。世界が注目するスポーツイベントに際して、国際課題に対しての関心が集まるのは良いことではある。同時に、人権問題にしても外交問題にしても、W杯でのアクティビズムのインパクトは、残念ながら一時的で、限られたものでしかない。

Text by MAKI NAKATA