「カタールW杯ボイコットする」仏などで拡大、なぜ? 外交ボイコット求める声も

建設中のルサイル・スタジアム(2019年12月)|Hassan Ammar / AP Photo

◆欧州の深刻なエネルギー危機
 最後の理由は、資源保護的観点によるものだ。二つ目の理由とも重なるものだが、ロシアのウクライナ侵攻により深刻なエネルギー危機を迎えている現在だからこそ、人々に訴えかける力が大きいと思われる。

 欧州では電気・ガスなどのエネルギー不足と価格の高騰により、休業する工場や、廃業する飲食店などが出ている。スーパーは照明を落とし、どの施設も暖房の温度を下げ、エネルギー費節約のために冬休みを延ばす学校さえある。現在、エネルギー危機は西欧諸国にとって喫緊の課題で、フランスでは早くから国民に資源節約を呼びかけているほどだ。

 大型スクリーンの不設置を決めたフランス、ランス市のロビネ市長も「公的機関がエネルギー消費の削減を呼びかけているこの時期に、(大型スクリーンのような)設備設置は当然理解を得られないものだ」とその理由を説明している(RTL 5minutes、10/4)。

◆なぜいまになってボイコット?
 人口約80万人で秋田県ほどの大きさの国のカタール。サッカーの伝統があるわけでもないその国に8つものスタジアムが必要なのか? スタジアム建設で大量の死者を出し、冷やした空気を屋外に垂れ流し、資源を無駄遣いし、環境に多大な負の影響を与えるワールドカップを開催することに何の意義があるのか? それが大方のボイコット派の意見だ。

 しかしながらカタールが2022年のワールドカップ開催地に決まったのは2010年のことだ。カタールの人口も面積も、サッカーの伝統がないことも当時からわかっていたことだ。また、作業員に多くの死者が出たというガーディアン紙の報道は1年半前のものだ。この報道内容を受けて当時ボイコットを真剣に協議したのはノルウェーのサッカークラブのみだった(RTL 5 minutes、2021/3/17)。

 では、なぜいまになってボイコット表明が急増しているのか? それはひとえに、近年ますます身に迫って感じられるようになった気候変化の重大さと、現在西側諸国が悩むエネルギー危機が原因だろう。

Text by 冠ゆき