人気リアリティ番組『リアル・ハウスワイフ』のドバイ版が放送開始

Kamran Jebreili / AP Photo

 広大な砂漠を映した後、カメラはペルシャ湾岸沿いに建てられた高級住宅が立ち並ぶ人工島へと方向を変える。すると視聴者に警告を発するかのように不気味な和音が鳴り響く。ただ、これはお馴染みのオレンジカウンティの『リアル・ハウスワイフ(The Real Housewives)』ではない。

 リアリティ番組として定着しているこのアメリカの番組は、16年に及ぶ歴史で初めて、華やかなソープオペラの世界を外国、今回はとくに高層ビルが立ち並ぶドバイ首長国に持ち込む。シリーズ作品としてはラゴスやバンクーバーなど、世界中で数え切れないほどのスピンオフ作品が販売されてきたが、ブラボー・ネットワークが外国で制作するのはこれが初めてだ。

 ドバイ版の『リアル・ハウスワイフ』は6月1日に放送が開始された。世界中で愛され、視聴され、嫌われてきた、女同士の争いと夫婦喧嘩というネットワークの至宝に新たに6人の女性が加わることとなる。

 ドバイは、2006年にリアリティ番組の帝国ともいうべき番組がスタートしたカリフォルニアのゲーテッドコミュニティから1万3000キロも離れている。それはシリーズのティーザー広告に登場するラクダの映像を見れば明らかだ。

 だが、ドバイのハウスワイフたちが豪華なランチを食べながら噂話をして、ステムグラスを傾けながら言い争い、デザイナーロゴを身にまとった姿で気楽に過ごしているのを見ると、オレンジカウンティとの距離をほとんど感じさせない。

 それこそ、彼女たちが伝えたいメッセージでもある。出演者たちによると、贅沢なパーティー三昧の生活を画面に映し出すことにより、イスラム教を公認の宗教とする湾岸アラブ連邦のUAE(アラブ首長国連邦)に対する画一的な見方が大きく変わるという。

 NFT(非代替トークン)でできた肖像画が飾られ、偉業を記念するトロフィーが多数置かれた部屋のなかで、シリアルアントレプレナー(連続起業家)でシングルマザーのサラ・アル・マダーニ氏はAP通信に対し「番組制作は、西側世界、そして全世界に向けて現代のアラブ女性が実現できる姿を示す好機」と述べている。

Kamran Jebreili / AP Photo

 彼女が着ているのはアラブ諸国の伝統的な民族衣装アバヤではない。つばの広いスエード帽をかぶり、鼻輪、舌ピアスをつけ、腕には「Rebel(反抗者)」と書かれたタトゥーを入れたマダーニ氏は「私は典型的なアラブ人でも首長国の人でもない」と切り出した。

 キャストのなかではアル・マダーニ氏が唯一のアラブ首長国人だが、この国では外国人と自国民の比率が9対1であることからするとさほど驚くような話ではない。

 ほかのハウスワイフたちは、遠く離れたところからドバイに華やかさを見出していた。ブラボー制作の『レディース・オブ・ロンドン』シリーズで物議をかもしたリアリティスターのキャロライン・スタンブリー氏は離婚後、元サッカー選手と再婚して子供を連れてドバイに引っ越してきた。

 マサチューセッツ州出身でアフロ・ラティーナ系実業家のキャロライン・ブルックス氏は、競争の激しいドバイの不動産業界で成功を収めた。予告編では「浮気をすると高くつくよ。元カレに聞いたらわかるわ」と話している。

 レバノン出身で3児の母でもある超セレブのニーナ・アリ氏は、フルーツケーキを扱うショップ「Fruit Cake」を創業した。高級マタニティウェアのデザイナーで、ビューティクイーンに輝いたこともあるジャマイカ人のレサ・ホール氏は最近、24カラットの金箔を乗せたアイスクリーム・コーンをインスタグラムに投稿した。

 UAEでの偏見を乗り越え、ヨーロッパの一流ファッションハウスで活躍するケニア出身のモデル、シャネル・アヤン氏はメーキャップ製品を開発している。AP通信のインタビューのなかでは「外向的、面白おかしく、クレイジー、ものすごく魅力的だと思う」と自己分析している。

Kamran Jebreili / AP Photo

 シリーズに出演しているアメリカのスターたちと同じように、ドバイの女性たちも旧来の意味でのハウスワイフ(主婦)ではなく、自己ブランドの確立に余念がない裕福な経営者である。そして、世界を舞台に絶えず売り込みをかけているドバイは彼女たちに最適な舞台を提供している。

 超富裕層に訪れてもらうことを意識し、きらびやかな高層ビルと無数のショッピングモールを備えた街づくりを行ってきたUAEは、所得税もかからない。低賃金で長時間働く南アジア、アフリカ、フィリピンからの出稼ぎ労働者をはじめ、貧富を問わず世界中から一攫千金を求める人々がドバイに集まっている。だがこの番組では、裕福な女性のごく一部の生活を取り上げているに過ぎない。

 キャストたちはドバイについて「女性が自由に楽しみ、好きなことができる欧米化された遊び場」と表現している。

 スパンコールのついたプラダのクロップトップを身にまとい、タズという名前の黒ポメラニアンをあやすスタンベリー氏は「ここには華やかさ、魅力、ファッションがある。このような国に住めることが、どれだけ価値のあることかがわかっていないでしょう」と話す。コーヒーテーブルの上には、F・スコット・フィッツジェラルドの著作『美しく呪われし者』が置かれていた。

 だがUAEでは、イスラム法のもと女性は夫に従うことが法的に義務付けられている。大がかりな法改正がなされたとはいえ、公共の場での罵倒、飲酒、キスは問題視される可能性がある。同性愛はもちろん、異性装も禁止されたままだ。政治的に問題のある動きがあると、当局は排除に動く。

 制作陣によると、伝統的な価値観と言論規制によって、石油資源の豊富なUAEは長らく中東エンターテインメントの中心地になれないでいたが、これらは撮影の足かせにはならないという。

 ブラボー幹部でこのシリーズを担当しているセジン・カブソグル氏は「アルコール入りの会食やドラマチックな対決にぜひ期待してほしい」と述べている。ただし、公共の場での飲み物の投げ合い、テーブル返し、髪の毛の引っ張り合い、そのほかこれみよがしの喧嘩のシーンはなさそうだ。

 同氏は「キャストたちはドバイに住んでいるので、ここで許されること、許されないことの違いはわきまえている」とした上で、「ありのままの自分を演じ、正直にしかも難しい話をすることで素晴らしいコンテンツを提供してくれた」と話す。

 AP通信からの問い合わせに対し、ドバイ政府が運営するメディアオフィスからの回答はなかった。番組の制作が開始されたのは、ドバイの観光局と映画委員会がシリーズを承認したからである。

 10年以上も前の話だが、ドバイ政府は道徳的な問題を理由として映画『セックス・アンド・ザ・シティ』の続編の制作を承認しなかったことがある。それを考えると、今回の決定は大きな変化だ。

 リアル・ハウスワイフが注目を浴びることについて、UAEのすべての人が手放しで喜んでいるわけではない。予告編で下品な言葉使いをするビキニ姿の女性に驚きを隠せないインフルエンサーのマジド・アラムリ氏は、インスタグラムでこのシリーズを酷評した。

 同氏は「UAEは寛容な国だが、だからといって他人が私たちのモラルを踏みにじっていいわけではない」と語る。地元メディアも「もっと相応しい描写があるのでは」と話す堅実な主婦を紹介している。

 だがキャストや制作幹部が言うには、リアリティ番組シリーズというものは常に、一般視聴者の現実から切り離された現実逃避の世界だという。

 「ただのエンターテインメントなんです」。晴れた日には自然保護区を歩くゾウや、砂漠にそびえる高さ世界一のタワーが見える真新しいキッチン越しに、スタンベリー氏は「皆さんは私たちのクレイジーな生活の真相をお見通しです」と話す。

By ISABEL DEBRE Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP