「世界一高額な音楽祭」の権力闘争、勝ったのは誰?

ザルツブルクの街並み

◆ザルツブルク・イースター音楽祭の争い
 ところが2018年に、ドイツ・バイエルン州立歌劇場の総裁を務めていたニコラウス・バッハラーがイースター音楽祭次期総裁に就任すると発表され、雲行きが怪しくなった。

 それまでは音楽祭付きオーケストラの首席指揮者としてティーレマンがすべてのプログラムを決定していたが、バッハラー氏が2022年に総裁となる時点でプログラムの決定権も得るからだ。案の定バッハラー氏は、すでに決まっていた2022年以降のプログラムを白紙に戻すと宣言し、代替案も発表した。

ニコラウス・バッハラー|© Markus Jans

 これは欧州音楽界に不協和音を響かせた。「ティーレマン氏は7月29日付で共同経営者と監査役会に、『指揮者が負う芸術的責任に外部から介入され、別の曲目やプログラムを課されることは容認できない』とし、不安を抱きながらも、自分がすでに決定していた演目が承認されることを待つという書簡を送った」(2019年8月21日バイエルン放送・クラシック)」

「その数ヶ月前からティーレマンは『バッハラーとの協働はイメージすることすらできない』と語っていた。周辺では、『この争いは政治的な取り巻きが意図していたもので、それによってベルリン・フィルを呼び戻す計画なのでは』などと推察されている」(2019年8月22日クラシック・インフォ
 
 バッハラー氏はベルリン・フィル現首席指揮者・芸術監督のキリル・ペトレンコが無名に近かった頃、バイエルン州立歌劇場の音楽監督に引き抜いてペトレンコの世界的キャリアに繋がった。こうした経緯を考えると、バッハラー氏はベルリン・フィルを呼び戻すというミッションを背負って総裁に就任した、という憶測もあながち荒唐無稽ではない。
 
 結局ティーレマンは敗れた。今年のオペラの演目とヒロイン役ジャクリーン・ワグナーの配役だけはティーレマンの案が継承されたが、これを最後に彼とシュターツカペレは、ザルツブルク・イースター音楽祭を去ることになった。2023年からは毎年別のオーケストラが招待されるというが、それもベルリンフィルが戻って来るまでの繋ぎとも見える。

Text by 中 東生