アフリカ初のプリツカー受賞者フランシス・ケレ、軌跡とビジョン
◆ケレのビジョンと軌跡
ケレの出身国であるブルキナファソは、教育環境・経済状況ともに最も貧しい状況にある国の一つである。村長の長男である彼は、コミュニティから初めて学校に通う生徒となった。彼が通った学校の校舎は、セメントのブロックでできており、風通しが効かない構造のもので、100人以上もの生徒たちが、暑い中、何時間も教室に閉じ込められているといったような学習環境であった。この経験から、ケレはいつかよりよい校舎を作ることを決心した。
1985年、彼はベルリンで大工仕事の職業訓練を受けるための奨学金を獲得。日中は屋根や家具作りを学び、夜間は学校に通うという生活を送った。その10年後の1995年、ケレは新たな奨学金を獲得し、ベルリン工科大学(Technische Universität Berlin)に入学。2004年に建築の上級学位を取得した。
在学中、ケレは母国での学校建築の資金調達のために財団を立ち上げ、2001年に出身地に最初の建築プロジェクトであるガンド小学校(Gando Primary School)を完成させた。校舎の建築にあたっては、地元の人々もアイデアや労働力を提供。コミュニティを巻き込んだ建築プロジェクトとなった。校舎のデザインは、子供たちが快適に授業を受けることができる環境づくりが最優先されたものになっている。のちに校舎に先生のための宿舎や図書館も隣接された。
2004年、ガンド小学校はアーガー・ハーン建築賞(Aga Khan Award for Architecture)を受賞し、この受賞がきっかけとなってケレはベルリンに事務所を立ち上げた。その後、ブルキナファソ各地、ケニア、モザンビーク、ウガンダなのでの学校建設や医療関連施設の建築を手がけた。また、ケレはアフリカ外でも活躍の場を広げ、デンマーク、ドイツ、イタリア、スイス、英国、米国などでもプロジェクトを展開。2017年にはロンドンのサーペンタイン・ギャラリー(Serpentine Gallery)で毎年、異なる建築家に依頼される夏季限定パビリオンの設計を担当。地元ガンドのコミュニティ空間にインスパイアされたパビリオンはとくに注目を集めた。
今回、初のアフリカ人のプリツカー賞受賞者となったケレ。ガーディアンの取材に対して、「人種差別について、直接的なコメントは控える」とした上で、建築分野で成功するためには多くのリソースを必要として、非常に秀でていてかつ運がよくなくてはならないが、アフリカの若者に対して建築の道に進む可能性を示したいと述べた。
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