“三重苦”なのに批評家絶賛『ドライブ・マイ・カー』 米豪メディアの評価は?

Janus Films and Sideshow via AP

◆三重苦なのに高評価? 批評家絶賛
 すでに海外からたくさんのレビューが出ているが、ほとんどがコメントしているのが2時間59分という上映時間だ。通常英語圏では「長い」「外国語(字幕付き)」かつ「スローな展開」の作品は好まれないが、『ドライブ・マイ・カー』については「気にならない」「それでも見るべき」という批評が多い。

 豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙のポール・バーンズ氏は「多くの人が3時間の字幕に思いとどまるだろう」「氷河期のようなスピードで展開する」と述べつつも、息の止まるようなタイトな美しさを持つ作品だと評価。映画が素晴らしい芸術を生み出すことができると信じてそれを目指す数少ない映画人が濱口監督だと絶賛している。

 米アトランティック誌のデビッド・シムズ氏は、字幕作品にもかかわらず登場人物の会話に魅力を感じており、長い上映時間はむしろ衝撃的なほど必要だと主張する。濱口監督の凄さは、車の中を瞑想的な空間にし、意味のない世間話を終わらない悲しみの独り言に変えたことであり、観客は登場人物が次に発する言葉に釘付けになるとしている。

 米スター・トリビューン紙のクリス・ヒューイット氏は、忍耐を要するが、それは報われる映画だと述べる。アクション満載とは言えない3時間の作品は1秒1秒を大切にしており、小さな謎を設定して見るものに登場人物の行動を推測させる。家福とみさきの車中で育まれる不思議な絆を好意的に捉え、人は一人ではないことを思い出させてくれるとしている。

◆アカデミーに変化? コロナ禍も後押し
 米ヴァニティ・フェア誌は、通常オスカー候補になる作品は投票権を持つアカデミー会員によく知られた監督の作品で、彼らの感情に訴えやすいもの、そして3時間ものではないと説明する。ところが『ドライブ・マイ・カー』はニューヨーク映画批評家協会、ロサンゼルス映画批評家協会、全米映画批評家協会で最優秀作品賞を受賞し、批評家から絶大な支持を得た。映画批評家集団はアカデミー賞に影響を与えないとよく言われるが、今回は主要部門でのノミネートに値するという批評家たちのメッセージを、アカデミー側が受け取った結果だとしている。

 さらにコロナ禍で劇場上映や対面キャンペーンが一時止まったことも『ドライブ・マイ・カー』にはよかったとしている。積極的に現場に滞在できない国際的なプレーヤーにとっては、オンラインでの会話は公平なチャンスを与えてくれる。また、莫大なキャンペーン予算のない映画にとっては、純粋に見る価値があるかどうかで評価されることが重要だとしている。

 米オンライン・メディア『スリリスト』のエスター・ザッカーマン氏は、アカデミーが『ドライブ・マイ・カー』を外国作品賞ではなく垣根のない部門でノミネートしたことに変化の兆しを感じるとした。作品賞受賞はまだ遠いと感じるが、今回のノミネートによって挑戦的、感動的、かつ見ごたえのある濱口作品がさらに注目されることを願うとしている。

【関連記事】
危機に対する社会の反応を風刺、『ドント・ルック・アップ』のアレゴリーとは
『パラサイト』ポン・ジュノ監督、オスカー受賞の喜び語る 米でドラマ化も
アカデミー賞受賞『オクトパスの神秘』の舞台裏 タコとダイバーの「友情」を描いたドキュメンタリー

Text by 山川 真智子