物議を醸したオカシオ・コルテス議員のメットガラドレス 込められた意図とは?

J. Scott Applewhite / AP Photo

◆話題を呼んだオカシオ・コルテス議員
 メットガラは1995年以降、米国版ヴォーグの編集長であるアナ・ウィンターがその企画に携わってきた。ニューヨーク・タイムズのベテランファッション・ジャーナリストであるヴァネッサ・フィリードマン(Vanessa Friedman)の解説によると、メットガラが現在のような世界的に有名な一大イベントとしてのステータスを確立したことは、ウィンターの功績によるところが大きい。それまでは、ニューヨークにおけるローカルな慈善イベントだったガラは、世界のセレブリティが集結し、世界のメディアが注目するグローバル・イベントへと変革を遂げた。イベントには、クリエイティブ業界だけでなく、テック業界、政治、スポーツの世界の著名人が招待される。

 今年の参加者のなかで注目を集めた人物の一人が、AOCの愛称で知られる、ニューヨーク州選出の民主党下院議員アレクサンドリア・オカシオ・コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez:AOC)だ。AOCは2019年に初めてメットガラに招待されたが、同年は参加せず、2020年のメットガラ自体のキャンセルを経て、今年初めてメットガラに参加。彼女はこの機会を政治的なメッセージの発信の場として利用。事後、インスタグラムにて「政治の世界でよく言われることとして『媒体はメッセージそのもの』という格言があるが、ファッションも媒体の一つ。だからこそ、その重要性が軽んじられがちであるファッションという媒体を守ることが大事だ」との発言を投稿した。

 彼女がメットガラで着用したのは白いドレス。前から見ると、シンプルな白いドレスに見えるが、背中から裾の半分ぐらいまでにかけて、赤字で大きく「TAX THE RICH(金持ちに課税しろ!)」とのアップリケが施されている。このスローガンは、AOCの政治活動のなかでしばしば使われており、彼女自身のキャンペーン・グッズのショップでも「TAX THE RICH」のロゴが書かれたTシャツやトレーナーが販売されている。彼女のメットガラ参加とドレスは注目されるとともに、対立党派側からも彼女の支持者側からも批判や落胆の声があがった。その内容は、富裕層を非難するメッセージを発信しつつ、一部の富裕層のみに限られた排他的で高額なガライベントに参加しているという矛盾を指摘するものなどだ。AOCは、これまで多くの男性政治家がメットガラに参加していることを指摘し、自分が女性だからこそミソジニー的な反発を受けていると反論した。

 ドレスをデザインしたのは、トロント出身、ニューヨーク在住のデザイナー、オーロラ・ジェイムス(Aurora James)。彼女は、2013年にアフリカの精神をコンセプトにおいたファッション・アクセサリー・ブランド、ブラザー・ベリーズ(Brother Vellies)を立ち上げた。2020年には、大手小売店がその棚の少なくとも15%のスペースにおいて、黒人所有のビジネスの商品を扱うことを要求する活動団体、15パーセント・プレッジ(15 Percent Pledge)を設立。黒人系クリエイターとして、業界の構造的な人種差別の問題の是正に注力している。AOCが、ほかならぬ、ジェイムスがデザインしたドレスを着用したという事実は、ドレスにはそこに書かれた文字の意味以上のメッセージが込められていることを意味する。

 AOCとともにメットガラに参加したジェイムスは、事後のインタビューにて、メットガラに参加していたほかのゲストからのドレスに対する反応は、基本的に良好であったとした上で、会場のスタッフとして働いていた、主に黒人・有色系の人々は、AOCのドレスのメッセージをとくに喜んで受け止めていたと付け加えた。波紋を呼んだAOCのドレスは、前出の企画展示キュレーター、ボルトンが意図した平等、ダイバーシティ、インクルージョンのメッセージを訴える一つの媒体として、その役目を果たしたと言えそうだ。

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Text by MAKI NAKATA