Netflixが積極展開 アフリカのクリエイティブ業界の強力な追い風に

Aimee Corrigan / Wikimedia Commons

◆南アフリカ発のローカル・コンテンツ
 南アフリカでは、ネットフリックスのオリジナルシリーズ番組が人気を集めている。代表的な人気番組のひとつが『クイーン・ソノ』。本作品は、ネットフリックスが仕掛けたアフリカ初のオリジナル・シリーズである。『クイーン・ソノ』は、コメディアン・俳優・脚本家・監督といくつもの顔を持つカギソ・レディガ(Kagiso Lediga)が監督をつとめ、パール・ツシ(Pearl Thusi)が主演する、全6回のアクション・スパイ番組だ。ツシ演ずるクイーン・ソノは、反アパルトヘイトに対する抵抗運動によりテロリストとして扱われた母が、目の前で射殺されるという、幼少時代の重い過去を持って育った女性。現在は、大統領直下の秘密スパイ組織に勤務する。番組のメイン言語は英語だが、ズールー語やアフリカーンス語など11ある南アフリカの公用語の一部も使われている。さらに、南アフリカだけでなく、ケニアやコンゴなどがミッションの現場としてフィーチャーされている点も特徴的だ。2020年初頭に初回シーズンがリリースし、一度はセカンド・シーズンの発表がなされたものの、パンデミックの影響で撮影継続が困難になったため、シリーズは残念ながら中止となった。

 一方、セカンド・シーズンへの継続が決まっているネットフリックス・オリジナル・シリーズが、2020年にリリースした『ブラッド&ウォーター』だ。本作品は、ケープタウンの名門私立校に通う高校生が主人公のサスペンス・ドラマ。彼女がパーティーで偶然出会った別の女子高生が、生後間もなく誘拐された実の妹ではないかと疑い、さまざまな手段で真実を突き止めようとするストーリー。米国の富裕層の高校生を扱った人気ドラマ『ゴシップ・ガール』のような雰囲気があるドラマである。『クイーン・ソノ』同様、南アフリカの多言語が飛び交い、人種の差を超えた南アフリカの階級構造を垣間見ることができる。南アフリカでは、ネットフリックスの次なるローカルコンテンツとして、ダンスをテーマにしたドラマ・シリーズ『ジャイバ!』のリリースが予定されている。

 とくに南アフリカにおけるネットフリックスの積極展開は、現地ストリーミング・サービスのShowmaxを展開する、アフリカのエンターテインメント・コンテンツ企業であるマルチチョイス・グループ(MultiChoice Group)が率いるVOD(ビデオ・オン・デマンド)市場における、ローカルでのコンテンツ制作をさらに加速するものだ。ネットフリックスは先月、南アフリカ芸術文化省の関連機関で、映画・ビデオ業界に対する支援を行うNFVF(National Film and Video Foundation)と連携して、6つのマイクロ・バジェット映画を支援するとの発表もしている。予算は、新人・若手向けのプロジェクトが各400万ランド(約3000万円)、ベテラン向けは各600万ランド(約4500万円)と設定されている。政府との連携関連では、具体策は明らかにされていないものの、ネットフリックスは南アフリカ観光局との連携も発表している。また、ネットフリックスは、パンデミックで職を失ったクリエイターに対して、南アフリカでは一人当たり1万5000ランド(約11万円)の救済金を拠出している。

 ケープタウンには映画スタジオもあり、南アフリカはナイジェリア同様、映画業界のインフラが存在している。一方、主要2ヶ国以外からのアフリカ発のコンテンツの拡充も、今後は需要と供給の両方の側面から拡大しそうだ。ネットフリックスは昨年5月、アフリカのさまざまな国から100作品を集めた「Made in Africa」コレクションを発表。こうした展開は、アフリカでの市場拡大だけでなく、グローバル市場に向けた、アフリカン・コンテンツの訴求と認知拡大という意味もある。アフリカ人たちが伝える、多様性にあふれたアフリカ各国のさまざまな物語が、ネットフリックスという巨大なグローバル・プラットフォームによって拡散されることは、アフリカのクリエイティブ業界の躍進だけでなく、アフリカのソフトパワーの強化、アフリカに対する無知や偏見の撲滅につながるはずだ。

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Text by MAKI NAKATA