スマホ向け動画サービス「クイビー」 1話10分の“映画”に人気俳優も自信

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 彼らは最初、懐疑的だった。名前も変だし、コンセプトも少々クレイジーだ。しかし実際は、好奇心をそそられるものであった。

 10分以内のムービーや映像番組を携帯電話端末のみで配信するプラットフォーム「クイビー(Quibi)」。当初はこのサービスに懐疑的だった二人の人気俳優、アカデミー賞受賞歴のある俳優のクリストフ・ヴァルツと若手俳優のステファン・ジェームスが、最終的には参加を決意し、このジャンルに関わる俳優のパイオニアとなった。

「運営側が事業の全貌を語ったとき、私はこう言ったんだ。『10分以内? 本当に? 視聴者が集中できる時間はそこまで下がっているんですか?』ってね」と、ヴァルツは冗談を交えながら語る。
 
 しかしいまでは、誰でも気軽に短時間で視聴できるこのサービスに二人は自信を持っている。「ある意味では非常に独創的な試みであり、自分がこのチャレンジに関われたことを素直に喜んいる。時代の変化に応じて、私たち自身も変わっていく。そうあるべきだと思う」とジェームスは言う。

 クイビーは4月6日、年内提供予定の175以上ものプログラムの配信を開始した。チャンス・ザ・ラッパーが出演する『パンクト(Punk’d)』、クリッシー・テイゲンが少額裁判所の判事を演じる『クリッシーズ・コート(Chrissy’s Court)』などの作品も、そのなかに含まれる。

 最も話題性のあるドラマは2本。そのうち1本はヴァルツ主演の『最も危険なゲーム(Most Dangerous Game)』だ。この作品では、もう一人の主役として、狩りの獲物として追われる男をリアム・ヘムズワースが演じている。

Quibi via AP

 そしてもう1本の注目作は、ジェームス主演の『#フリー・レイ・ショーン(#FreeRayshawn)』。これはニューオーリンズを舞台に、警察から無実の罪を着せられた男を描いた緊迫感あふれるドラマだ。

 二人の俳優は、クイビーの撮影セットは通常のハリウッド映画のセットと何ら変わるところなく、品質を下げたり手抜きしたりしたカットは一つもなかった、と口をそろえる。「シアター向けの撮影プロジェクトと比べても、何の違いもなかった」とヴァルツは言う。

 主演のドラマ『最も危険なゲーム』には16のエピソードがあり、エピソードごとの時間は各10分。上映時間を合計すると、シネマコンプレックスで上映される映画と何ら変わりない。違いはただ、細かく分けて配信されるという点だけだ。

 ヴァルツは、「全部つなげたら、1本の映画になるだろう。ただし映画と違うのは、個々のエピソードのつなぎの部分に、クールでドラマチックなシーンや演出が組み込まれていることだね」と言う。

『#フリー・レイ・ショーン』は、無実の罪で警察に追われる黒人男性のストーリーだ。人種問題や警察のあり方などの難しいテーマに対して最新のアプローチで挑んだクイビーのこのドラマに、ジェームスは魅了された。黒人の権利を訴えるBLM運動に関する内容や、ソーシャルメディアの影響力のポジティブな側面が描かれている。

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 ジェームスは、「自分は一つの疑いもなく、アーティストとしての自分たちの使命は、命と社会をテーマにした作品を作ることだとずっと信じてきた。自分としては、『#フリー・レイ・ショーン』も、まさにこの信念に沿った作品だと言える」と言う。

『ジャンゴ 繋がれざる者(Django Unchained)』『イングロリアス・バスターズ(Inglourious Basterds)』でアカデミー賞を2度獲得した経歴を持つヴァルツは、クイビーとそれ以外のタイプの映画製作を比較する必要はないと述べる。

「時間が短いことと品質や価値で劣ることは同義ではない。これは何かの劣化版でもなければ、派生作品でもなく、何かの短縮バージョンでもない。これはクイビーだ。それ自体がオリジナルなんだ」と話す。

 ヴァルツは、今回のクイビーのサービス開始が映画制作の未来を先取りしているとか、既存の映画の終焉を象徴づける出来事だとか、とくにそのようには考えていない。そうではなく、ただ単に、今後は短いエピソードに分割された映画を携帯端末で楽しむスタイルが人々の生活の一部になるだけ、との見方だ。

「たとえば、ミニチュアサイズの肖像画が何枚もそこにあるからといって、だから風景画の未来がどうなるという話にはならないだろう。あるいは、バイオリンのソナタが1作品あるからといって、それによって交響曲の枠組み全体が根底から変わるだろうか? もちろん、そんなことはないよね。それらは同時に存在できるものだ」と、彼は語る。

 これまでにも数百万単位の人々が、スマートフォンの各種アプリやユーチューブでテレビや映画を視聴してきた。クイビーとは、これら既存のものをよりいっそう洗練させ、技術的に進化させたものだ。ジェームスはそのように考えている。

「実際の話、プラットフォームの種類に関係なく、クイビー登場以前の段階で、長編映画作品を携帯端末で見ていた人も大勢いたから。いまそこに、携帯端末向けに特化した新たなプラットフォームが加わったというだけなんだ」と彼は話す。

 アマゾン・スタジオ制作の『ホームカミング(Homecoming)』、バリー・ジェンキンス監督のドラマ『ビール・ストリートの恋人たち(If Beale Street Could Talk)』への出演を果たし、2018年にブレイクした注目株の若手俳優、ステファン・ジェームス。その彼に言わせると、クイビーが提供する映像作品は、今後はそれ以外のドラマや映画と同じく広くレビューされ、将来的にはそのなかからアカデミー賞やエミー賞にノミネートされる作品も出てくるかもしれない、とのことだ。

「このようなコンテンツが、ハリウッドの未来の一部になっていないことを想像するほうが難しい。それ以外のコンテンツと同様に、批評の対象に加えることは可能だと思うよ。これらの作品のなかには、実に多くの素晴らしい要素が詰まっているから。そこに加えない理由がないよね」と、ジェームスは述べている。

By MARK KENNEDY AP Entertainment Writer
Translated by Conyac

Text by AP

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