日本の小説、海外で「ミニブーム」 女性、遅咲き新人作家ら台頭

AP Photo / Eugene Hoshiko

 日本で最も権威ある文学賞の一つ、直木賞。今年の直木賞候補作には、ある共通の新要素がある。実は、今回ノミネートされた6人の作者すべてが女性作家だったのだ。これは直木賞85年の歴史の中でも初めての出来事である。

 日本では、古くはすでに11世紀に貴族女性の紫式部によって『源氏物語』が書かれている。これこそが世界史上最古の小説、と多くの人々に評価されている作品だ。現代小説に関して言うと、過去にノーベル賞を受賞した大江健三郎氏や川端康成氏に代表されるように、日本人作家と言えば男性のベテラン作家のイメージが長く語られてきた。また、この数十年にわたって日本文学界で圧倒的人気を誇ってきたのは村上春樹氏だ。魅惑的なリアリズムとポップなカルチャーとがシュールに入り混じる彼の作品は、国際的なベストセラーとなった。

 ところが今、日本文学はまた新たな様相を見せ始めている。若手、女性、壮年者などから成る新たな作家たちが、日本の国内外で評価を受けているのだ。

                                                                                                                 

 8月23日、今村夏子氏に芥川賞、大島真寿美氏に直木賞がそれぞれ贈られた。1935年に創設された芥川賞と直木賞。芥川賞は純文学、直木賞は大衆文学の中から受賞作品を選出してきた。受賞者には記念の時計と賞金100万円が授与される。しかし、それよりさらに重要な特典は、受賞作家にはメディアの注目が集中し、海外翻訳を通してより多くの読者を獲得できるはっきりとした道筋が開かれるという点だ。

 例えば、2016年に芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の『コンビニ人間』を例にとってみる。作者本人の仕事をモチーフにしたこの小説は、芥川賞を受賞したその年以降、日本国内で60万部以上を売り上げた。今なおコンビニエンスストア勤務を続ける村田氏だが、36歳で芥川賞を受賞後、「和製ビヨンセ」こと、タレントの渡辺直美氏らとともにヴォーグ・ジャパン誌が選出するその年の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。さらにその2年後には、村田氏の小説の英訳版が、ザ・ニューヨーカー誌の編集者が選ぶ「今年最高の小説」の一つに入るという成功を収めた。この雑誌は、過去に村上春樹氏を一躍スターダムに押し上げた雑誌でもある。

「才能ある作家の登場によって、国際マーケットはより大きく広がります」そう語るのは、村田氏と村上氏の作品を含めたアンソロジー作品集『Freeman’s』の著者であり、書評家のジョン・フリーマン氏だ。「過去25年間で、日本発の有望作家ラッシュが湧き起こっています。その波はさらに高まり、今では40歳前後の世代の優れた作家たちが台頭しています」

 一方、専門家らによるとアメリカとイギリスの出版業界では、翻訳小説を好む読者層が増えているのだという。たとえばアメリカでは、昨年1年間で、日本人女性作家の手がけた文学賞受賞小説の翻訳版の出版点数は6作品を数える。その中でも、多和田葉子氏の『献灯使』の英訳版は、2018年のNational Book Award(全米図書賞)翻訳書部門の受賞作品に選ばれた。

「ここ数年で、数多くの新たな日本の作家たちが英語圏の読者の間でも読まれるようになったことは、非常に喜ばしいことです」と、早稲田大学教授の辛島デイヴィッド氏は言う。同氏はこれまでに、芥川賞受賞作品の翻訳を手掛けたことがある。

 辛島氏によると、日本では、女性作家が書いた小説の出版数は男性作家と比べて今でも少ない。だが、この状況は今後変わりそうだと辛島氏は言う。文学賞の選考委員に女性が増えたことも、その理由の一つだ。また辛島氏は、昨今、日本の小説の翻訳版そのものが海外で「ミニブーム」を巻き起こしつつある、とも付け加えた。

「日本の国外では、過去5年ほどの間に、日本人女性作家が書いた小説を待望する声が高まっているのです」辛島氏は、そのようにも語った。

 日本国内でも、過去には主に男性作家によって書かれてきた既存の小説とは一線を画す、新たなストーリーへの需要があることを示す出来事があった。2019年の芥川賞と直木賞をそれぞれ受賞した2人の小説作品はともに、この夏のベストセラーとなっている。さらに、「韓国、フェミニズム、日本」特集を組んだ文学誌『文藝』の2019年秋季号が、2度の増刷が行われるほどの売れ行きを見せている。2度の増刷というのは、過去80年以上におよぶ同誌の歴史を振り返っても、かつて一度もなかったのだ。

 ブログ『Tsundoku Reader』を運営するアメリカ在住の翻訳者、エリカ・ツガワ氏は、中年になってから新人デビューする作家や、文芸とは関わりのないキャリアを経て作家デビューする新人が増えているのが最近のトレンドだと語る。ツガワ氏は、2人の子供の育児中に受けた理不尽な仕打ちに対する怒りをモチベーションに小説を書き始めたという元プログラマーの作家の例を挙げ、そのほか、夫の死後にたった1人で人生と向き合う74歳の女性を描いた『おらおらでひとりいぐも』で2017年に芥川賞を受賞した若竹千佐子氏(63)にも言及した。若竹氏がフルタイム作家として本格的に活動を開始したのは、彼女が55歳のときだった。

 小説ファンたちは、こういった人気の新人作家らが、単一の価値観の下でステレオタイプが押しつけられがちな日本社会においても、表現とアイデンティティの多様性を評価する流れを作り出してくれることを望んでいる。ツガワ氏によると、出版社側は今でも、村上春樹氏のスタイルに連なる「極めて奇想天外な」小説の翻訳には消極的だという。

「日本の小説に出会えたことはまさに天啓でした。お陰でそこから、とても多くのものを得ることができました。ベストセラーのリストには載ってこない作品の中にも、瑞々しいまでのオリジナリティを感じますよ」ツガワ氏はそのように語る。

By ALEX BARREIRA Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP