エベレストで死者続出、何が起きているのか ネパール政府、登山者に責任

Nirmal Purja/@Nimsdai Project Possible via AP

◆登山者のレベル低下 ガイドも力不足
 さらに問題なのは、経験の浅い登山者の増加だという。近年、通常は4万ドルから6万ドル(約440〜660万円)するガイドサービスを、3万ドル(約330万円)で引き受ける業者もおり、エベレストに登るのに十分な経験を持たない人まで引きつける結果になっているとアーネット氏は話す。

 今年はすでに11人の死者が出ているが、ほとんどが高山病で亡くなっている。標高8000メートル以上の区域は「死のゾーン」と呼ばれており、体力が低下し、酸素もなくなってくる。12時間で登れるところを未熟な登山者が20時間で登れば、当然酸欠になり高山病になる。さらに悪いことには、自分が高山病であることに気づかず登り続ける者もいる。格安ガイドのほうも医学的訓練などは受けてもおらず、いつ引き返すべきかわかっていないと同氏は述べ、本来エベレストは、頼りになる熟練したシェルパを連れずに、未熟な登山者が登れる山ではないと警告している。

◆明確な規制なし ネパール政府、登山者ともに責任を
 APは、医師の診断書があれば誰でも1万1000ドル(約120万円)を払って登山許可を得ることができるとする。また、ネパール政府は許可証の数に上限を設けることや、登山のペースやタイミングをコントロールせず、それらをツアー会社やガイドに任せてしまっている。APは、そのようなネパール政府の姿勢が混雑の一因になっていると指摘している。

 一方CNNに寄稿したジャーナリストのJill Filipovic氏は、ネパール側の事情にも理解を示す。ネパールはアジアのなかでも貧しい国の一つであり、登山による観光収入はライフラインで、観光客が多額の外貨をもたらす。また需要があることから、たとえツアー会社の経験が浅くとも、あまり厳しくはなれない。ただ、客、ガイド双方が犠牲を払うことになるのは避けるべきで、より厳しい安全基準ができれば、人命を救うだけでなく、エベレストへの信頼も高まると指摘。長期的に持続可能な儲かる旅先に変えていくことができ、結果的にはネパールの利益になるとしている。

 さらに責任は登山者のほうも持つべきだと同氏は主張。エベレスト登頂は多くの人々の夢だが、自分やガイド、同胞の命を危険にさらしてまで夢をかなえるべきだろうかと問いかける。旅の費用は以前と比べ安くなり、ソーシャルメディア漬けの文化においては、遠い世界の話も身近になった。バケットリストを減らすためや、インスタグラムでライクを獲得するための旅の計画に同氏は疑問を呈し、山に登る以外にも、人生を経験で満たす方法はあると諭している。

Text by 山川 真智子